流星の様に、軽やかに銀色と黄色が踊る。すっ、と糸を縫い付ける手際の良さは惚れ惚れするものでずっと見ていたくなる。真斗自身の凜乎たる雰囲気と相俟って、一種の儀式的な厳粛さを感じるのだ。

「四ノ宮、其の……楽しいか?」

手を止めずに、ちらと目線を那月に向ける。不安そうな声色には戸惑いも混ざっている様だった。だがそんな真斗の憂い等お構い無しに、端正な指の動きを只管うっとりと眺めて那月は微笑む。

「はい、楽しいですよぉ! 真斗君は器用なので尊敬します」

「然うか、其の様に熟と見られるのは慣れないが……四ノ宮が喜んで呉れるのならば、俺も嬉しいぞ」

くるりと指先で円を描いて那月は言う。

「ふふ、まるで真斗君は魔法使いですね。針のステッキで糸に魔法を掛けるんです。すると忽ち、美しく刺繍された布が現れる……屹渡、真斗君の心が一緒に編み込まれているから、素晴らしいものが出来上がるんです」

 真斗君に縫って貰えてこのピヨちゃんも幸せですねえ、と那月は又、ふわりと花が咲く様に微笑んだ。よもや可憐な少女とは云えないが、蜂蜜色の髪から零れる繊細な眼差しや煌々と枝葉を濡らす朝靄の様に柔らかい声に、真斗は酷く弱い。

「真斗君?」

 不意に俯き手を止めた姿に、那月は不思議そうに瞬きをする。

「この雛……ピヨちゃん、だったか。此処にピヨちゃんを縫い付けるのは今度でも構わないだろうか……?」

「はい、いつでも。我儘を聞いて貰ってるのは僕の方ですし」

「嗚呼、其れは良いんだ。俺がやりたくてやっている。裁縫は慣れているのだし……否、お前の為なら……」

気不味そうに言い淀み、暫しの沈黙の後、何かを決した様に立ち上がった。
那月はと謂うと、そんな真斗の考えが明瞭に成らない儘に彼に手を引かれて部屋を出た。





「――急に済まない。疲れてはいないか?」

「僕は大丈夫ですけれど……真斗君、如何したんですか?」

 駆け足だった為も有ってか、掴んでいた手が熱い。意識に反応する様に力強い鼓動が末端に迄流れて、尚残っていた僅かな迷いをも呑み込んだ。
緑影の透く中で、矢張り那月はこんなにも綺麗だ。俺達のこれからが如何為るかは判らないが、少なくとも此の儘では如何にも為らない事は解っているのだ。

真斗はゆっくりと言葉を紡いだ。

「四ノ宮、俺は……お前が好きだ。友としてでは無く、聖川真斗と云う1人の男として、お前を愛している……。初めは、クラスメイトとして側に居られれば其れで良かった。勿論此の想いを伝えよう等と考えてもいなかったんだ。いつしかお前の笑顔がもっと見たいと思い、そして其の笑顔を俺だけに向けて欲しいと…………俺は、お前を恋うる度に欲深い生き物に成ったのだろうな……」

「ふふ……多分、人間って然う謂うものですよ。何因りも先ず"生きたい"と云う欲望から成り立っているんですから……其れは、素敵な事です」

 那月はそっと真斗の手を取り、愛惜しそうに見詰めてから抱き締めた。優しく、そして確かめる様に強く。

「えへへ……こういうのを幸せって呼ぶんでしょうね。そっかあ……真斗君も同じ気持ちだったんですね……。聞こえますか? 僕の心臓の音……大好きな真斗君をぎゅってするだけで、僕はとってもドキドキしてるんです。もしかしたら『大好きだよ』って気付いて欲しかったのかなぁ。……ねえ真斗君。キス、しても良いですか?」

問いの返事も待たずに重ねられた唇の柔らかさには似合わぬ、ぎらりと底光りのする奸濫な眼差しを2人、共に宿していた。

「……四ノ宮……っ」

「那月です……ん、っは……那月って呼んで下さいっ……」

 何度も角度を変えて接吻けを交わす。吐息の漏れるのも許さない位に深く、激しく。探る様に、捕らえる様に。

「ッ……、愛している……那月……!」

「僕も……愛してます。……誰よりも、強く……――嗚呼、如何しましょう。もっと真斗君が欲しく為って仕舞いました……」

 余韻に眩み乍ら、そんな囁きを首筋に落とす。擽ったい程に誘われて、苦しい程に求めて。
やがて2人は風に解け、ゆかしくカンパニュラが揺れた。























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