「ねえ観月、君は如何して観月なの?」

 日差しの照り付ける頃、夏休みの宿題を進める僕に後ろから覆い被さり乍ら彼は問うた。

「随分と又可愛い気の無いジュリエットですねえ」

「こっち見る位してよ」

ノートに置いた視線を移す事無く答えた僕は不満そうな表情の彼へ、先刻まで手にしていた小説は読み終わったのかと尋ねれば、『飽きちゃった』と返された。
彼は、するりと僕の背中から離れると、向かいの椅子に座った。

「この暑さじゃ集中出来ないよ」

「まあ、何でも良いですが、僕の勉強の邪魔はしないで下さい」

「少し休憩したら? 別に、そんなに今日ばかり必死にやらなくたって観月なら平気でしょ?」

「何を根拠に?」

「君の性格」

 そう言って彼は笑い乍ら、柔らかに僕の手を退けノートと教科書を閉じた。
そして椅子を立ち僕の傍に来ると、行き場を無くした僕の腕を引き絡める。

「今日は厭に我儘ですね、其れに暑かったのでは無いのですか?」

「恋人が居るのに放って宿題してる観月の方が我儘だと思うけど……。うん、暑いよ」

「だったら引っ付かないで下さい」

「二人で汗かいて、熱い肌を寄せている。此れって凄く淫靡な感じがしない?」

 『いけない事してるみたいで、さ』
耳元で囁かれる声に震える身体を隠す為に、彼の腕を払い、気温も手伝った熱りを冷ますのも兼ねて冷蔵庫へ足を向かわせる。
喉に水分を流し込むと、幾らか落ち着いた。

「貴方こそ少し休んだ方が宜しいのでは? 暑さで正常な思考が働いていない様ですから」

「そうかもね。でも、だからこそ夏は開放的な季節と言われ、人は理性の檻から抜け出す事が出来る。太陽が有るべき姿を溶かし出し、眠っていた本能が目を覚ます」

「感情に流されて理性を失いたくないと思うのも又、人の本能だと思いますよ」

「其の瀬戸際で揺れているのが良いんじゃない」

「悪趣味」

 扇風機の風に涼む彼の横に腰を下ろす。
ふう、と溜息を吐く僕に再び寄り添って来る。そんな彼に半ば諦めを悟った僕は、二度目の溜息を吐いた。

「解ってる癖に無視するんだから」

「貴方が極度の淋しがりだって事は解りました」

「じゃあ答えは?」

「……仕方の無い人ですね」

 僕が血管の透けて少し紅潮した彼の頬を撫でると、彼は僕の肩ごと抱き寄せて接吻けた。赤く燃える舌に溶ける様に、重力に身体を預ける。
見詰めた彼の瞳には、僕と同じ色の炎が見えた。














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