RYUGA

□序章
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「…」

僕の脇をスルリと抜け相手は歩き出した。

「待って!待って下さい!妹を助けて!」

「…」

慌てて追いかけ進路を塞いだ僕に当然の反応と言わんばかりに眉をひそめ立ち止まる。

「邪魔」

「妹を助けて下さい!」

「…何故?」

「何故?妹はッ!!「君!大丈夫かい?」

僕の声を遮って男の人が僕と相手の間に不躾に入って来た。
相手は男の人にぶつからないように一歩下がる。

「大丈夫かい?」

再度顔を覗き込まれ訳が分からず男の人の問いに只頷く。

「俺は姿を"見せるつもりが無い"から、其奴に俺は見えない。其奴からすれば、お前は独りで喚いてる変人だ。」

僕に教えてくれたのか、相手は別段興味も無さそうに呟く。

言われて、痛々しい視線を改めて認めれば多少なりとも傷付く。

しかし、人間に見えない相手が見えている僕と妹は何なのだ?一度気になったソレは一気に膨らみ僕の思考を埋め尽くす。

「…何故、人に見えない貴方が僕に見えるんです?」

「君、本当に大丈夫かい?」

おじさんは少し気味悪そうに周りに視線を巡らせると、僕の肩を掴んだ。

「馬鹿じゃないの?少しは人目を気にしろよ」

言って相手は電灯の上に跳び乗った。


おじさんには見えない。

分かってる、だけど…無性に腹が立った。


僕は相手を見上げ叫んでいた。

「僕は貴方と話してるんだ!貴方は存在してるっていうのに、何がおかしいんだ!」


『だから言っただろう…馬鹿じゃないの?』

『…だって君は此処に居るんだから。僕が世間体気にしちゃったら…君の存在を否定してる事になっちゃうじゃない。』

『だから、良いんだ。』


「……。」

間抜けにヘラッと笑ったあいつと見上げてくる睨み顔が重なる。


「…そのまま黙って家まで帰れ」

「ッ「聞こえなかったか?」

言葉を返す前に遮られ、不機嫌そうに睨まれたって諦めてなるものか。
僕が睨み返すと、大きな溜息が聞こえてきた。

「…俺の気が変わる前に、さっさとしろよ。…殺すぞ」

僕はハッと意味を理解した。

この人…この妖怪は無表情な割に案外良い奴なのかもしれない。

そんな事を考えつつ家に向かう僕の足は少しばかり早足だったに違いない、スキップだったかもしれない。

妹が絶対良くなる気がしたからか、
僕も"変わった心友"が出来るかもしれないと心の奥で考えていたからかもしれない。


少し離れた僕の後ろをのんびり歩いてくる妖怪と目が合う事は無いが、チラチラ見るなとイライラしているような気がしたので真っ直ぐ前を向いて歩く事にした。


さっきの『殺すぞ』は流石妖怪とばかりに怖かったなぁ。


と、やはり人では無い事を再確認しつつ、僕は妹の元へと急いだ。







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