変わり種
□◆アイのテ◆
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病院(ここ)から一歩出れば、キラキラのイルミネーションの中をイチャイチャ歩くカップルばかりだってのに、
今年の俺は…というと、
………一切無縁だ。
付き合ってた彼女には、
“私と仕事、どっちが大事なの?”
…なーんて、ベタな台詞を吐かれて最近振られたばかりだ。
…元々、クリスマスなんざ宗教イベントみてぇなもんだろ。
世の中浮かれ過ぎだっての…。
「……まぁ…どうでもいーんだけどね。」
津森は、雪の降り始めた窓の外を眺めながら、コツンとガラスを叩いた。
…つか、野分のやつ…まだ仕事してたな。
今日は、あいつ休み取ってたのに、
……このまんまじゃ、イブ終わっちまうだろうに。
休憩を終えた津森が診察室に戻ると、ちょうど帰り支度を終えた野分がバタバタと廊下を走って来た。
「すみません、じゃ俺これで失礼します。」
「おー、休みなのに悪かったな。」
「いえ。」
おーお、慌てちゃってー。
愛しのヒロさんと待ち合わせってか?
野分の背中を見送ると
ピロピロピロピロ
首から下げていたピッチが、嫌ーな音をたてる。
「はいはい。」
『先生、急患です。』
「ウッソ、また急患かよ。」
せめてさ…静かなクリスマスにしよーぜ。
「津森先生、これから5人緊急搬送したいって連絡来てるんですけど。」
1人2人ならまだしも、なんで、5人なわけ?
「5人!?無理だって。他の病院に回せ。」
いくら俺でも5人ってのは、さすがにキツいぞ。
「でも既に6軒他の病院に断られてるって…」
「つったって、今日、小児科医俺しかいねーんだぞ」
診れねーもんを受け入れるなんてことは、逆に患者を危険にさらす事になる。
「先輩、俺もう少し残りましょうか?」
……野分。
「いい、お前もう5日ぶっ通しだろ。もう帰れ。」
「先生、どうします?」
「とりあえず、3人回せ。」
「あのっ!」
……野分の目は
「後は断れ。」
「俺、やりますっ。」
誰かが苦しんでいるなら、俺がなんとかしてやりたい…なんて
「全員受け入れお願いします!」
一丁前に医者としての使命感に燃えていた自分に…
常に優先されるのは仕事で…、今も昔も自己犠牲の上に成り立ってるのを十分に自覚しながら、がむしゃらに仕事してた自分に…。
「わりぃ、頼むわ…。」
………よく似てる。
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