変わり種
□◆満月の夜に◆
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ゴンっ!
「……なっ…なんだ!?」
夜も更けて来た頃…サッシに何か当たったような音に、読書をしていた弘樹は顔を上げる。
何となく気になってカーテンを開けると、ガラスの向こうは月明かりに照らされた街並みの景色で…特に変わった様子はない。
………気のせいか。
カーテンを閉め直そうとすると、足元に黒くて小さな丸い塊があった。
…………なんだコレ?
ガラス越しに目を凝らすと、その塊がモゾモゾと動いている。
「……………。コウモリか?」
サッシを開けたら逃げてしまうかもしれないな…と思った弘樹が、この珍客をガラス越しにそっと観察していたら、モゾモゾしていた黒い塊はピクリともしなくなってしまった。
「あっ…あれっ!?」
もしかして、アレかっ!?
うっ打ち所が悪かったのか!?
最悪の事態が頭をよぎり、慌ててサッシを開けた弘樹は、丸い塊を両手ですくいあげた。
小さなコウモリは、ほわんと温かく…手の中でモゾモゾと動いたので、心底安堵する。
「よ…良かった。」
…とかく
気味の悪いイメージで見られがちのコウモリだが、
手のひらにあるフワフワとした柔らかい毛に覆われたまん丸のコウモリに、うっかり可愛い…などと思い目を細める。
「ガラスに突っ込むなんて…ドジだなお前。」
小さな頭を指で撫でると、鼻をピクピクさせたコウモリは、ゆっくりと目を開け体毛に負けないくらいの黒くてつぶらな瞳を覗かせた。
「あ…こんばんは。すみません、飛んでる最中に眠気が襲って来まして……目測を誤ってしまいました。」
小さな手で目を擦ったコウモリは、体を起こすと丁寧に挨拶する。
「……なっ!コ…コウモリがしゃべったっ!?」
びっくりして思わず手を離してしまうと、あたりまえのように黒い塊が床の上に転がり落ちてしまった。
「……うー。」
呻きに似た声をあげたコウモリに、
「…あ、わりぃ。大丈夫か!?」
弘樹はまた拾い上げる。
「は…はい、へっちゃらです。ついでに目も醒めました。」
落ちた拍子に腹を打ったのだろう、弘樹の手のひらの上で小さな足を投げ出すようにして座り、丸いお腹を擦(さす)っている。
「…くすっ。」
その仕草がまた愛らしく、ほんわかした気分になる弘樹だったが、ふっと我に返った…。
「いやいや、ここは笑うところじゃないっ!お前、今しゃべったろっ!?あ、いや…違うか、オレが夢見てんのか?コウモリが言葉を話すわけないだろ…。」
「いえ、俺です。」
コウモリはキチンと正座すると、真剣な表情で弘樹を見上げた。
「バカ言え、コウモリがしゃべるわけねぇだろっ!オマケに正座してるコウモリなんぞ見たことねぇぞっ!」
あまりにも現実離れしていて、思わずコウモリをギュッと掴んだ弘樹は更に力を込めてしまう。
「いっ、いたたっ!苦しいですっ!」
小さな頭をブンブン振って、目を白黒させるコウモリに握力を少し緩めた弘樹は、敬語を話す世にも珍しいコウモリを、
「……………。」
訝しげに見つめる弘樹だった。
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