変わり種

□◆事情◆
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「ほら美咲。ミネラルウォーターだ。ゆっくり飲むんだぞ。」

「うん。ウサギさん…ありがと…。」


病院の待合室で、辺りの視線を一身に集めるのは、

浮き世離れした華々しい容姿と、類い希なる文才にて世の読者を魅了する天才小説家宇佐見秋彦その人と、

その秋彦曰わく「夏風邪は、バカしか引かない。」という希少価値の高い風邪をひき、熱を出した高橋美咲であった。




ペットボトルの水を口に含む美咲の隣に腰かけた秋彦が、ふと目を留めたのはズラリと並ぶ診療科の奥にあったED専門外来で…

自分には縁がない…と、熱にうかされる美咲の頭を撫でた。



「ありがとうございました。」


その診療科から出て来た長身の男は、力なく頭を下げた。

再び視線を向けた秋彦は首を捻る。


それは、以前に弘樹と一緒にいるところを数回見かけたことのある男だったからだ。


秋彦の記憶に間違いがなければ、彼は幼なじみの恋人だ。



深く息を吐いた後、ガックリと肩を落としてトボトボと待合室の前を歩いて来た野分は、秋彦に気づいて立ち止まる。


「……宇…佐見さん?」


野分に声をかけられた秋彦は、

「…どうも。」

と、素っ気ない挨拶する。


出て来た診療科と白衣を腕にかけている野分の様子から、それなりに配慮した結果だ。

故に、「どうした?」なんて不粋な事を聞いたりしない。



「ねぇ…ウサギさんの知り合い?」

そんな事とは露知らず、美咲はコソッと秋彦に尋ねた。


「うん?……ああ。ちょっとな。」


「そうなんだ。…あの…こんにちは。オレ、高橋といいます。」

美咲は、フラフラしながらもペコリと頭を下げた。


「こんにちは。草間野分です。今日はどうされたんですか?」


野分は挨拶しながら、つい、いつもの癖で聞いた。

「はい、風邪ひいちゃって…。えっと…草間さんは…?」

美咲も病院ではお決まりの挨拶で返すと、

一瞬沈黙が流れ…

隣にいた秋彦は、渋い顔で頭を抱えた。



「あー。……えっ…と…。」

野分は、返事に困り言葉を濁すと


「まぁ、色々あるだろうから無理に答える必要ないだろう?」


診察室から出て来たのを、秋彦に見られただろう事を悟っていた野分は


「…いえ。なんだか、突然勃たなくなってしまって…。」

隠す事なく答えた。



「……たたない?……って?。………あ///…す…すみませんっ。」

やっと気づいた美咲は、慌てて謝ると、

野分は「いいえ。気にしないで下さい。」と優しく微笑むのだった。



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