変わり種
□◆研鑽◆
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草間は、学生の時から付き合ってる恋人がいるらしく…仕事で忙しい合間をぬっては電話やらメールやらを頻繁にしている。
…まめなヤツだ。
「あ、ヒロさん…野分です。すみません、今日も帰れないかもしれません。……え?…あ…はい…わかってます。……ヒロさんも夜更かししないで下さいね。……はい…はい。あ…それから、ヒロさん愛してます。…あ…あれ…っ!?……切られちゃった。」
しょんぼりした草間が名残惜しそうに携帯を見つめ、はぁ…と溜め息をついた後、
「ヒロさん…愛してる。」
容赦なく切られた携帯にキスをしてポケットにしまう姿を、俺は何度となく目にしてきた。
ヒロさん…か。
他人の恋人に興味はないが、配属されて数週間でナースどもを虜にしたにもかかわらず、
あらゆる手管を使いモーションをかけてくる彼女達に見向きもしない。
彼女との付き合いが長いってのは本人から聞いていたから、
そんな草間が夜な夜な愛の言葉を囁くラブコールを遠慮なく切るという彼女は…相当クールらしい。
「草間くーん。どーした?彼女にでも振られたのかぁ。」
茶化す俺に、草間はゆるく眉を寄せた。
「……津森先輩。そんなんじゃないですよ。」
「だって、今日も電話切られてたじゃん?愛しの“ヒロさん”…にさ。」
「ヒロさんは、すごく照れ屋なだけで…とっても可愛い人なんです。」
「うわっ…憚(はばか)らないねぇ。」
俺には、その感覚…ちょっとわかんないな。
「そういや…草間の彼女って、歳いくつなの?」
「4つ上です。…それから、1つ訂正があります。」
「は?訂正って?」
「ヒロさんは彼女じゃありません。」
「彼女じゃ…ない?お前付き合ってるって言ってたじゃん。」
「…もちろん付き合っていますよ。」
含みのある草間の言い方に引っかかりを覚えたが、これ以上聞いても“彼女じゃなく恋人です”とか言い出して、惚気まくるに違いない。
それは、最近別れたばっかで独り身の俺にはダメージが大き過ぎる。
「あーはいはい、ご馳走さん。ほら仕事戻るぞ。」
物言いたげな草間の背中をポンと叩いて話を切り、ほんの少しだけ横になった休憩室を出た。
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