変わり種

□◆堕天使◆
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「あー重いっ。腕がもげそ…。」


弘樹は、買い込み過ぎた本が入った紙袋を両手に抱え、四苦八苦しながら自宅マンションに向かっていた。

それでも、ずっと探していた逸品に内心はホクホクだったが、心配なのは見上げた空に低く立ち込める雨雲だ。


「…やばっ…今にも降ってきそうだ。」


天上界に住んでいた頃の弘樹は、下界を洗う雨を眺めていた事を思い出す。

…ったく。

あの頃は大地の埃を綺麗にしてくれる空の滴を便利なものと思っていたが、

今、自分がおかれた状況を鑑みると…

「………最悪だ。」


そう言って眉根を寄せて紙袋を持ち直した。



「あの…お手伝いしましょうか?」


遠慮がちな声に振り返ると、えらく背の高い男が人懐っこい笑顔で微笑んでいた。

「……は?」


腕が痺れ始めていた弘樹は、喋るのも億劫だ。


「…ですから、その荷物重そうなので手伝いましょうか?」

その男は丁寧に言い直した。


「…あ…いや…いいよ。家近いし、大丈夫だか……ら…?」

懸念していた雨がポツンと弘樹の頬を濡らした。


「ちっ。降ってきやがった…。」

…もう少し保たせてくれても良いだろうに…と恨めしく空を仰ぐ弘樹の顔を更に濡らした。


ポツポツと雨脚が徐々に増してくるのを苦々しく思いながら、歩く速度を速めたい弘樹だったが、両手の本がそれをさせてくれない。


「持ちますよ。大切な物なんでしょう?」

男は、弘樹の手から紙袋を1つヒョイと持つと、空いた弘樹の手を握りしめ走り出した。


「おっおいっ。勝手になにして…///。」


「家…どの辺りですか?」


「えっ…あ…そこを右に曲がったとこのマンション…。」

半分になった荷物のおかげで身軽になった弘樹は、手を繋いだまま前を走る男の背中に


「お前…名前…なんて言うんだ?」

角を曲がる寸前に、口を開いた。


「俺の名前?…あっ…ここでいいんですか?」

名前を聞く前にマンションに着いてしまった。


「あ…ありがと。大切な物だったんだ…濡らさずに済んで良かったよ。」

「どういたしまして…。」


黒い瞳を細めた男は、弘樹に紙袋を渡した。


「……お前の名前…聞いてない。」


「名前?…どうしてです?」

「礼を言うのに、名無しじゃ言いづらいからだっ…///。」


「そうですか、俺…草間野分っていいます。」


名字か名前だけ答えるのかと思いきや、迷わずフルネームで答えた男に誠実さを感じる。



「草間野分君…か、いい名前だ…。草間君、ありがとうな。ホント助かった。」

「…俺も…あなたの名前聞いてもいいですか?」

「えっ…ああ。上條弘樹だ…。」

「上條弘樹さん…。素敵な名前ですね。。」


野分はニッコリ笑い、軽く会釈をすると小雨の中に消えていった。



草間野分…か。

今時、珍しい爽やか青年だったな…。


弘樹は、また紙袋を両手抱えるとエレベーターのボタンを押した。






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