ロマンチカ
□恋人参観
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「ったく、恋人参観ってなんだよ…。」
文芸の編集部に箱を置いて、箱の中の本に視線をおとした。
…この本ってさ、締切大破(やぶ)りして…
相川さんが首に縄掛ける寸前に仕上げたヤツだよな…。
美咲は眉をひそめた。
やるなら、計画的にやればいいのに…。
「あの、ウサ…っと…宇佐見先生の本…ここでいいですか?」
「ん?えっ!?宇佐見先生の本?ダメだよーっ。んなとこに置いちゃ!」
編集部の人が慌てたように取りに来たので、
「すみません。どこですか?オレ運びます。」
もう一度箱を持ち直した美咲は、その人が示すテーブルへと移動した。
「ご苦労さん。あー、バイト君、貰いもんだけどクマシュー食べる?」
「あ…嬉しいです。ありがとうございます。」
遠慮がちに受け取り、今の仕事が今日最後の仕事だった美咲は、相川に報告し本日の仕事はお役御免となった。
帰り支度をするためクマシューの入った箱をぶら下げロッカールームへ荷物を取りに行った美咲は
文芸の人達がウサギさんの本を大事に扱ってくれてて…、嬉しく思うとともにウサギさんってやっぱりスゴいんだと改めて思いつつ…
上着を羽織り、バックを掴むとロッカーの扉を閉めた。
「…腹減った。」
丸川書店のロビーで待っていたが、一向に秋彦の姿は見えず…思いのほか長引いているようで…
バイトが終わった身で、いつまでもここに留(とど)まるのも…何となく居心地が悪い美咲だった。
「…失敗した。先に帰るって言えば良かったかな。」
独り言を呟いていると、切羽詰まった相川の声がする。
「ねぇ!バイトの高橋美咲君知らない?もしかして帰っちゃったっ!?」
受付のお姉さんは、詰め寄る相川の気迫に若干引きながらも美咲を指差した。
「……あの…何かあったんですか?」
スゴい勢いで美咲に近寄った相川は、キョロキョロとあたりを見回した後、美咲に耳打ちした。
「…ちょっと目を離した隙に、先生に逃げられちゃったのよ。」
………は?
「に…逃げられた…って、どういう事ですか?」
顔をひきつらせ耳打ち仕返すと、
「今日は、丸川で出してる雑誌の対談するはずだったんだけど…トイレに行ってくるって部屋を出たっきり…姿が見えなくなっちゃって…。」
………なんじゃそりゃ
「ト…トイレに…いなかったんですか?」
「いたら、探さないわよ…。」
ロビーの片隅で、コソコソと話をする2人だったが…刻一刻と時間は過ぎていく。
「お願いよっ美咲君!」
「な…なんですか?」
「エサになってちょうだいっ!」
「……エ…エサ?」
美咲は眉を顰めた。
「そうよっ。美咲君さえいれば、先生は絶対に出てくるっ!」
「…えっ!?…ちょっ…相川さん!?」
相川は、美咲の腕を鷲掴みするとエレベーターに乗り込んだ。
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