エゴイスト
□日常。
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「…お前さ…よくあの人混みの中で、オレのこと見つけられたよな。」
「当たり前じゃないですか。何年一緒にいると思ってるんですか?」
「そういうのは、関係ねぇんじゃねえの?」
「……わかりますよ。」
「…ふーん。一応なんでか聞いとくか。今後の参考にするから。」
野分は、くすっ…と笑うと、弘樹の耳元に唇を寄せて囁いた。
「…それは…ヒロさんだからです。」
「…………///。」
降る雪を頭上で水滴に変えてしまうくらいの勢いで顔を赤くした弘樹は、
「…ば…ばかやろ…///。そんなこと聞いてんじゃねぇよっ!」
傘を両手で掴み、早足で野分を引き離しにかかるが、
「ヒロさん。どうしたんですか?」
こういう時のコンパスの差は大きい。あっという間に追いつかれてしまう…。
「そんなんじゃなくて…だな、…もういいや。」
本気で人混みの中から人を見つけ出すコツがあるのかと、真面目に聞いていた弘樹は、期待に反した野分の甘いセリフに不覚にも鼓動を早めてしまった。
「ヒロさん。早く帰りましょ。すごく手が冷たくなってますよ。」
野分は弘樹の手をとると自分のコートのポケットに入れた。
「お…おいっ。」
「大丈夫です。一緒に歩いてるようにしか見えませんから。」
「ばか言ってろ。」
弘樹は、スルリと野分のポケットから手を引き抜いて、自分のポケットに入れた。
…何年も…こんなふうにして過ごして来た。
野分に恋して…
……想いは…募るばかりで…
こいつと、ずっと一緒にいたいと…舞い降りる白い雪を見上げて願う。
「…ヒロさん?どうしたんです?」
「…ん?…いや…別に。…なんで?」
「…雪に…ヒロさんが………いえ…なんでもないです。」
「なんだよ。ヘンなやつだな。」
「すみません。」
2人で顔を見合わせ笑う…。
弘樹は、こんなありふれた日常が、とても幸せだと思った。
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