エゴイストU
□+サンタ見習い+
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そして、クリスマスイブの日、
「………なんで、誰もいないんだ?」
大荷物の小鳥遊の隣で、弘樹が他の学生を探す。
当初の訪問先は、保育園やら児童施設とか言っていたのに、ゼミのヤツが風邪で病院に行った時、パジャマ姿の子供を見かけ「そうだ、入院中の子供達にしよう。」と思い立ち、一同に諮(はか)ったところ…満場一致で決まったらしい。
………それが
たまたま野分のいる病院だった。
決して、オレがそうしたかったわけではない。
………だからと言って
…まったく考えなかったわけでもない。
「そろそろ来ると思うんですけど…。」
プレゼントの入った大きな紙袋を両手いっぱいぶら下げた小鳥遊は、ガサガサと音をたてながら腕時計を覗く。
「サンタクロースのズボンのサイズ直してから来るって言ってたので…。」
聞けば…この小鳥遊の体つきが一番サンタクロースに向いていたのだが、如何せん腹まわりが若干合わず急いで手直ししているらしい。
「…間に合うんだろうな?」
弘樹が病院側に受け入れ許可をもらうついでに、都合の良い時間を聞くと19時を提示してきた。
学生達は、夜の方がクリスマスらしくて良いと快諾し、オレは…といえば、野分のいる病院に堂々と訪れることが出来る大義名分を手に入れたのだ。
「はい、車ですし大丈夫だと思います。とりあえず、控え室準備してもらってるんで…着替えながら、そっちで待ってましょう。」
そんなやり取りをしながら、病院側が用意してくれたという小児病棟の控え室へと向かった。
偶然、野分に会えるかも…とか、遠くからでいい…野分の姿を見かける…とか、小さな期待がなかったわけではないが…。
野分は外来なのか、ナースステーションにあいつの姿はなかった。
………淡い期待は期待のままで終わる。
ちょっぴりガッカリしながら控え室に着いて、白い大きな袋にプレゼントを移しかえる弘樹の横で、サンタ役の小鳥遊が着替え始めた。
「あ…あれ…?」
小鳥遊の戸惑ったような声に、
「ん?どうした?」
顔を上げた弘樹は、小鳥遊の姿に顔を引き攣らせる。
「お前…この短期間にどんだけ太ったんだよ。」
「すいません。忘年会続きで…。」
小鳥遊は、前ボタンがまったく届かないサンタの上着からポッコリした腹を揺らして笑う。
「ばかやろ、腹丸出しのサンタなんて見たことねーぞっ!」
子供の夢壊してどうすんだよっ!?
「だっ大丈夫ですよ、他のヤツが着れば良いことですからー。」
頭を掻きながら暢気に笑うと、小鳥遊の携帯が音をたてる。
「もしもし?…今、どの辺?」
どうやら、電話の相手はこちらに向かっている学生らしい。
「…うん…うん…。…………えっ…?」
そう言った小鳥遊は、弘樹をチラリと見る。
「うんうん、わかった。何とかする。…うん…じゃ…。」
短く言葉を交わした小鳥遊は電話をきった。
「なんだ、どうした?何かあったのか?」
「渋滞にハマって、全然動かないそうです…。」
「渋滞って…な…なに言ってんだよ…もうすぐ時間だろうがっ!」
サンタなしじゃサマになんねーだろっ!
「だから先生っ、お願いしますっ!!」
……………はっ……?
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