ロマンチカU
□ウサギとミサキの協同作業
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それは…遡ること数ヶ月前…。
直森賞及び菊川賞を史上最年少で受賞した宇佐見秋彦大テンテー様は、締切をとうの昔に大破りしているから…
一般庶民の大晦日なんていう年越しの一大イベントは、ただ日常の通過点でしかなく…。
「…あの…ウサギさん、相川さんが可哀想なことになってるけど…?。」
原稿を待つ間、延々と毒を吐いていたが…ついには鬱々と無口になった相川を気の毒に思い、おせち料理を作る手をとめ秋彦を呼びに来たのに
「…知ったことか。どうあがいても書けんものは書けん。相川には、そう伝えろ。」
原稿がサッパリ進まず不機嫌な秋彦は、そんな事はお構いなしだ。
「出来るかっ!相川さんずっと待ってんだぞっ!今日は大晦日なのに!サッサと原稿書いて、まともな新年迎えさせてやれよっ!」
大晦日と聞いてキョトンとした秋彦は
「…………大晦日?」
……まったく。
部屋に籠もってばっかだから、日にちの感覚なくなるんだっ!
「そうだよっ!今日は大晦日っ!世間じゃ新年を迎える年越しの日だよ!」
「………ふむ。」
キーを叩く秋彦の指の動きが止まり、クルリと振り返る。
…こういう時のウサギさんは
……大抵ロクでもない事を考えてるんだよなぁ。
「な…なんだよ?」
一抹の不安を覚えた美咲が後退りすると
「……いや…別に。」
秋彦は涼しげな笑みを浮かべた。
「そうだ…美咲。今晩、蕎麦が食べたいな。」
「…年越し蕎麦?…うん…いいけど。そのかわり、ちゃんと仕事してくれよ?」
「もちろんだ。相川には明るいうちに、丸川に辿り着くことが出来るよう約束する。」
「ホント!?じゃあオレ、蕎麦の準備するよっ。」
ウサギさんが仕事してくれるんなら、おせちの他に年越し蕎麦でもなんでも作るさっ…くらいの勢いの美咲だった。
「いや…原稿終わったら一緒に作りたい。」
「……え゙っ!?」
……………マジで?。
瞬時に粉まみれの秋彦の様相が頭をよぎり…冷や汗を流す美咲をよそに、椅子から立ち上がった秋彦は、本棚の脇にある大きなダンボール箱をゴソゴソ開け始めた。
「…ウ…ウサギさん…なにしてんのさ?」
「なに…って、通販で蕎麦を作る道具を揃えたから、それ使おうと思っている。」
麺棒とのし板…捏ね鉢から麺を切る包丁のはてまで並べた秋彦は、楽しそうに笑う。
「…手打ち蕎麦…なの?」
………やけに準備がいいじゃねぇかよ。
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