変わり種
□◆祝賀◆
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…帰宅して…扉を開け絶句する。
…それは……目の前に広がるリビングいっぱいの花束で…。
「………なに…これ。」
「お帰り。」
「た…ただいま。この花束なんなの?」
鈴木さんに膝枕してもらい、だらしなくソファーに転がる大ベストセラー小説家の宇佐見秋彦大先生に再度尋ねてみた。
「…………知らん。」
「知らねーわけねぇだろっ!!…なんだってこんなに花束がいっぱいあるんだよっ!」
「花屋が持って来た。」
面倒くさそうに答える秋彦に、
「んなことわかってるよっ!つうか、どうすんだよ…花屋出来んぞっ。」
美咲は、花束に付いているメッセージカードを取り出し目をやった。
『受賞おめでとうございます。』
………へっ?
…受賞?
「…ウサギさん、またなんか賞とったの?」
「……うん?…ああ。たいしたもんじゃない。」
秋彦は、どうでもいい…と言わんばかりに寝返りする。
「相川さんは?」
「…さっき帰った。」
菊川賞の時は、井坂さんや相川さんが来てたし、電話もじゃんじゃんかかって来てたから…ホントにそんな大きな賞じゃないのかな。
美咲は、そんな事を思いながら電話に視線を移した。
………!
………切ってやがる。
なんの躊躇(ためら)いもなく、すっぱりと切断された電話線の脇には、ハサミが転がっている。
「…はぁ。また、斬りやがって…。せめて抜いとくとかすればいいのに…。また、買って来なきゃなんないよ…。」
「…静かでいいじゃないか。」
秋彦は、むっくりと体を起こしタバコに火をつける。
「そういう問題じゃなーいー。ああもう、どうしよう…電話線は買って来るとして…問題は、この大量の花だよな…。」
「…捨てればいいだろ。ったく…狭くてかなわん。」
ふぅ〜っと、呑気に煙を吐いた。
「何言ってんだよ。せっかくこんなに綺麗なのに。もったいないから花瓶に飾る…。」
あー、でも…バラって、水揚げとか大変なんだよな…。
「と…とにかく、なんとかするから…。買い物してくる間に捨てんなよ。」
美咲は、財布の入ったカバンを肩から提げながら秋彦に言い含めた。
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