変わり種

□◆恋の季節◆
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◆恋の季節◆+拍手文+



「なぁ、ヒロキ。俺と寝ないか?」


そんな物騒な声に…昼寝をたたき起こされた俺は、転がるように窓から顔を出した。


「うるせぇなっ!やだって言ってんだろ!」


冷たくあしらいながら塀の上を歩くヒロさんの後ろを付いて歩くのは、お隣の篠田さんとこのネコだ。


透き通るような琥珀色のフワフワした毛皮を纏うヒロさんは、オスにしておくには勿体ないほど魅力的なネコだから、

恋の季節ともなると、こうしてヒロさんに言い寄るオスネコもグンと増える。

恋人の俺としては気が気じゃない。


「気持ちよくしてやるって。だから…」


「……………。」

なおも粘る篠田さんに、我慢の限界とばかりに立ち止まり、クルリと振り返ったヒロさんは


「しつこいんだよっ!発情期ならメスとしろよっ!メスとっ!」


全身の毛を逆立て怒鳴ったヒロさんは、篠田さんにバシバシと素晴らしいネコパンチを数発おみまいした。


一見細身で弱々しく見えるけど、ヒロさんの素敵な毛皮の下には弾力のあるしなやかな筋肉が付いていて、

その体躯から繰り出されるパンチの速さといったら…優れた反射神経と俊敏さを併せ持つオレ達ネコの中でも群を抜いている。


ヒロさんの見事なネコパンチをまともに食らった篠田さんは、憐れ塀の向こうに叩き落とされてしまった。


フンと鼻を鳴らし長い尻尾を一振りしたヒロさんは、

こちらをジッと見た後…スタスタと行ってしまった。


「…ヒロさん。」


彼とは恋人同士になって…まだ間もない。

俺は、年上のヒロさんに一目惚れだった。


…捨てネコだった俺は、草間の家に拾われて、野分という名をもらった。

体が他のネコよりちょっぴり大きなくらいで、真っ黒の毛並みな上…何の取り柄もなくて…。


最初は、ヒロさんに鼻にもかけて貰えなかった。

でも何度もヒロさんの所へ通って、体をペロペロ舐めて愛を伝えたんだ。



せっかくヒロさんと恋人同士になれたのに、


草間の家の人が、みんな仕事に出てしまうようになってからは、戸締まりは厳重で…なかなか外に出られない。



「はぁ…ヒロさんに会いたいなぁ。」



情けない溜め息しか出ない俺は、ひたすら夜を待つしかなかった。


+++



夜になって、やっと家を抜け出す事が出来た俺は、心躍らせてヒロさんの家に向かった。



家に着いてヒロさんの姿を探すと、月明かりが照らす屋根の上で月を眺めているヒロさんを見つけた。

「ヒロさん、ヒロさん。会いたかったです。」

ピョンピョンと木を伝い屋根に飛び乗ると、


「野分?」


お月様を背にこちらを向いたヒロさんは、とても綺麗で…うっかり見蕩れてしまった。


「な…なんだよ?」

「ヒロさんがあんまり綺麗で目が離せなくなってしまいました。」


「……ばか…なに言ってる///」


恥ずかしそうに照れるヒロさんが、とっても可愛くて…思わず頬ずりすると、

ヒロさんは長い尻尾をクルリと俺に巻きつけて応えてくれる。


「ヒロさん…大好きです。あなたに会いたくて会いたくてたまりませんでした。」


「…昼間会ったじゃねぇか。見ただけだけど…」


「はい。でも…ヒロさん、篠田さんに迫られていたのに…守ってあげられなくて悔しかったです。」

「あんなの…大したことじゃねぇ。この時期…慣れてるし…。」


そう言って前脚をペロペロと舐める。


発情期は、強い子孫を残すため…不特定多数のネコと交尾するのが常だ。

欲情を満たそうとするオスと、子孫を残そうとするメスが…俺のヒロさんを狙う。



「俺…この時期だから、よけい心配なんです。いつもよりヒロさんを狙うオスネコ多いし…メスだって…」

毛繕いするヒロさんの耳元を舐めながら、そう言うと…


「ばか…///オレを、他の奴らと一緒にするんじゃねぇっ。」


頭を叩かれて目の前に星が飛ぶけど

…俺を殴る時のヒロさんは絶対に爪を立てないんだ。


それを知ってるから…嬉しくて、ついつい頬がゆるんでしまう。




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