ロマンチカ

□恋人参観
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最近始めたアルバイト…それは、相川さんから紹介してもらった丸川書店の雑用…。


これが結構楽しい。


出来たての生原稿が、大きな封筒からチラッと見えたりすると、もうワクワクドキドキで…


…みっ見たい。


そんな衝動をグッと堪える日々…。


「あーいたいた。美咲君、ゴメン、これ運んでくれるかなー。」


「はい。」

相川が指差したのは、製本されたばかりの深い青色が印象的な本で…


…作者は………っと、


…げっ…ウサギさんだ。


「宇佐見先生すごいでしょ?発売されて直ぐに売り切れちゃってね。この勢いだと、まもなくコレ位はいっちゃうわよ。」

相川は人差し指を立てた。

「…へぇ…すごいな。もうすぐ10万部なんて…」

感心したように美咲が笑うと、相川は呆れたように肩を落とした。

「…美咲君…1ケタ違うわよ…。」


「…あ…すみません。1万部ですか?」


秋彦の本がビッシリ入った箱を持ち、真面目に答える美咲に更に溜め息をつく相川だった。





「ははは。秋彦も安く見られたもんだな。」


丸川書店の御曹司、井坂が後ろで白い歯を見せれば、

「元々コイツには、興味がないだけでしょう。」

不機嫌な秋彦が眉間にシワを寄せたまま、美咲の持つ箱をヒョイと持ち上げた。

不意に箱の重みがなくなり、聞き慣れた声と目の前に現れた秋彦に驚きの声をあげる。


「ウサギさんっ!?。き…来てたの?」

「…そ。恋人参観。これ持ってってやる。」



軽々と箱を持つ秋彦は、榛色の瞳を細めた。


「おーっと、そこまで。うちのバイト君を甘やかしてもらっちゃ困るなぁ。」


透かさず、ツッコミを入れる井坂を一瞥した秋彦は、

「……美咲、ここのバイト辞めてしまえ。」


「なに勝手なこと言ってんだよ。それに、これはオレの仕事だしっ。」


そう言って秋彦から箱を奪い取った。


「可愛くない。」

拗ねたように、端正な顔をしかめる。

「そういう問題じゃない。いいから、ウサギさんは仕事しろよ。来たからには、打ち合わせとかあるんだろ?」

「…ない。」

ボソッと呟いた秋彦が踵を返すと、井坂が上着を素早く掴んだ。

「秋彦っ。ここまで来といてふざけた事言ってんじゃねぇぞ。」


「そうだよ。ちゃんと仕事しなよ。オレはあと少しで終わりだし…待ってるからさ。」


美咲は、時計を見ながら秋彦を諭した。


「…すぐに終わる。」


井坂に引っ張られ、嫌々ついて行く秋彦の背中を見送り、小さく溜め息をついた美咲は、

本の入った箱を持ち直し秋彦とは反対の方向へ足を向けたのだった。




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