ロマンチカ

□ウサギとミサキとお酒
1ページ/7ページ





「よっしゃ。んじゃ…、お疲れさん。カンパーイ!」


「カンパーイ!」


今日は、短期バイトで知り合った人達と打ち上げの飲み会だ。


幸いな事にウサギさんは、井坂さんと相川さんに半ば強制的に拘束され、

丸川書店主催のイベントに出席中。

…今夜はホテルに宿泊するそうだ。

…で、次の日は取材があるから…帰ってくるのは、明日のお昼頃って言ってた。


珍しくあの家に1人ぼっちだ。



…まぁ、たまには良いかもと思いつつ……ちょびっとだけど、寂しいのも事実で…。



「ほらっ美咲君!飲んで飲んでっ。」


「ぅわっ!…はい。ありがとうございます。」


手渡されたコップに口をつけるが、カルピス味で…美味しいかも。


正直なところ…あまりお酒は強い方ではないと自負はしてるんだけど、

こんな風に歳の近い人達と飲み会なんて、ほとんどないからスゴく新鮮で楽しい。


……それは何故か。


ウサギさんが邪魔するからっ。


ピロロピロロ…


「美咲君、携帯なってるよ。」

「えっ?…あっ、すみません。」

慌ててポケットの携帯を取り出し開くと、


………げっ!

ウサギさんだっ!


「もっ…もしもし?」


『美咲、今どこ?家にかけても出ないし。…騒がしいな。どこにいるんだ?』


「…あっ…と、バイト仲間と打ち上げで…。居酒屋に来てる。」

『…お前、酒弱いだろ?飲み会なんてまだ早い…。』


…ほら来た。

「オレだって付き合いがあんの。酒だって弱いの知ってるから、酔っ払うほど飲まないよ。」


『……そうか。じゃあ…あまり遅くなるなよ。』

………あれ?


「ウサギさん?」

『…じゃあな。おやすみ。』

「え…あ…うん。おやすみなさい。」


…なんだよ…あっさり引きやがって…。


携帯をマナーモードにしてから、テーブルにポンと置いた。


「なーに?今の電話、彼女ぉ?」

「…ちっ違いますよーっ///。」


バイトで知り合った仁(じん)さんが、意味深な笑みを浮かべて覗き込んできた。



彼は、ちょっと見た感じは軽そうだけど、仕事は器用だし何より真面目で…


バイトもいくつか掛け持ちしてるそうだ。


「仁さんは、他にどんなバイトしてるんですか?」

「んー。美咲君がコレ飲んだら教えてあげる。」

…オマケに飲ませ上手だ。

「オレ…あんまり酒に慣れてないので。」

「くすっ。大丈夫だよ。そんなに強い酒じゃないし。」

…なら、いっか。


カルピス味の酎ハイは、飲み口もいいからスルスル飲んでしまった。


「お見事ー。じゃあ教えてあげる。えっと、バーテンダーでしょ、映画のエキストラに…宅配便…塾の講師と図書館の本の整理とか…それから…」


「………随分あるんですね。」


「芸の肥やしってやつだよ。俺ね…俳優目指してんの。」

「…すごいっ。夢があるっていいですよね。」


「美咲君面白いね。“君ならなれるよ”って言わない人…初めてだ。」


仁さんは、人懐っこい顔で笑った。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ