ロマンチカ

□+奇跡の産物+
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+奇跡の産物+




「…美咲。もうすぐホワイトデーだな…。」

珍しく…〆切前に仕事を終わらせた宇佐見秋彦大テンテーは、鈴木さんの隣りでコーヒーを優雅に堪能中だ…。


「あ…別にお返しとか、いらないよ。」


美咲はキッチンで洗い物をしながら遠慮した。


「………誰がやると言った…?」


「え?…だって…ホワイトデーつったらバレンタインのお返しする日じゃないの?。」

秋彦が、はぁ〜…と、溜め息をつくと、美咲は、眉をひそめた。

「……なんだよ。」


秋彦はソファーに腰かけたまま…長い足を組み替えると、真剣な面持ちで…

「………俺は、365日“好き”と“愛している”を毎日のように言っているんだぞ?年に2回くらいは、美咲が言ってもバチはあたらないと思うが?」


「………なぁ…大テンテー様よ…それはナニかい?バレンタインのチョコもホワイトデーのお返しも…オレってか?」


「何か問題でも?」


「大ありだっ!どこの世界にバレンタインもホワイトデーもおんなじヤツに続けて贈らにゃならんのじゃ!」


「じゃあ、俺が贈ろう。何が欲しい?」


「いらねーよ。別に欲しいもんとか無いし…。」

「…じゃあ、やっぱりお前が……。」

「…だからそれ…根本的におかしいだろ…。」

美咲は、がっくり肩を落とした。










……そして…ホワイトデー当日…。





「…美咲。」

意味ありげに、秋彦は美咲を呼んだ。

「…なんだよ。いらないし、準備なんかしてないぞ?」

「…気が変わった。菓子業界の陰謀に乗っかる事は不本意だが、俺も手づくりというものに挑戦してみようと思う……。」


「…え"っ!?。…いやいやいや…無理しなくていいから。…むしろしないで欲しいんだけどっ。」


「大丈夫…心配するな。手づくりセットを既に購入済みだ。マニュアル通りに作れば問題ない。」


……マジ?

ウサギさんが作るの?

……無理じゃね?


秋彦の破滅的な料理センスを熟知している美咲は…背中に寒いものを感じた……。




Yシャツにネクタイ姿のまま…キッチンに立った秋彦に…恐る恐る美咲は声をかけた。

「…ウ…ウサギさん…無理しなくていいよ?」

「…ふ…。心配するな。…こういうの一度やって見たかったんだよね。」


薄ら笑いを浮かべた秋彦に、一抹の不安を感じた美咲は、キッチンから目を背けた。



…………それから間もなくの事…。

およそキッチンから聞こえるはずのない有り得ない音は、

…今まさに行われている工程を恐怖にかえるに足るものだった…。


荒れ果てたキッチンの後片付けを想像し…悲しみに似た感情が込み上げて来た美咲は、いたたまれなくなり…。

「ウサギさんっ。ごめん。ホワイトデーも俺やるからさ。ねっ!ウサギさんっ!お願いだから、もうやめて。」


美咲は、秋彦の掴んでいるホワイトチョコ入り容器を奪い取ろうとしたが、

「…なんだ。もうすぐ完成するのに。」

頑として、譲らない秋彦と取り合いになってしまった。


「いや…マジ無理だから…。それ離せって!」

勢いをつけ過ぎた美咲は…秋彦が準備していたビターチョコの型の中にホワイトチョコをぶちまけてしまった。


「げっ!…なんてこった…。」

美咲は…がっくり膝を落として落ち込んだ…。

「ご…ごめん。ウサギさん…。」


「…美咲…。お前の気持ちは良くわかった…。」

「…だから…ごめんって……。」

「…お前…器用だな。」

感心したように秋彦は言う。

「なに言って…っ…。」

美咲の唇は…嬉しそうに瞳を細める秋彦によって塞がれた。


「……///。っ…ぷはーっ!なにすんだっ!」


「不器用なやつだな。…言葉に出来ないからと言って…こんなふうに気持ちを伝えるとは…。」


「…は?」

秋彦につまみ上げられた美咲は、…驚愕した。

「なんだこりゃ!?」

視線の先にあったのは…ビターチョコに滲みながらも浮かび上がったハート型のホワイトチョコだった。

「…偶然だっ。偶然!意味ないから…。」

「いや…。これは必然だ。」

「ちっ…違うからっ!ちょっ…どこ行くんだよ!」

「…ベッド。」

「え"っ!?」

鼻歌まじりの秋彦の肩に美咲は担がれた。

「誤解だーっ……///!」


…家中に美咲の悲鳴が高らかに木霊したのだった…。



〔おわり〕

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