ロマンチカ
□+奇跡の産物+
1ページ/1ページ
+奇跡の産物+
「…美咲。もうすぐホワイトデーだな…。」
珍しく…〆切前に仕事を終わらせた宇佐見秋彦大テンテーは、鈴木さんの隣りでコーヒーを優雅に堪能中だ…。
「あ…別にお返しとか、いらないよ。」
美咲はキッチンで洗い物をしながら遠慮した。
「………誰がやると言った…?」
「え?…だって…ホワイトデーつったらバレンタインのお返しする日じゃないの?。」
秋彦が、はぁ〜…と、溜め息をつくと、美咲は、眉をひそめた。
「……なんだよ。」
秋彦はソファーに腰かけたまま…長い足を組み替えると、真剣な面持ちで…
「………俺は、365日“好き”と“愛している”を毎日のように言っているんだぞ?年に2回くらいは、美咲が言ってもバチはあたらないと思うが?」
「………なぁ…大テンテー様よ…それはナニかい?バレンタインのチョコもホワイトデーのお返しも…オレってか?」
「何か問題でも?」
「大ありだっ!どこの世界にバレンタインもホワイトデーもおんなじヤツに続けて贈らにゃならんのじゃ!」
「じゃあ、俺が贈ろう。何が欲しい?」
「いらねーよ。別に欲しいもんとか無いし…。」
「…じゃあ、やっぱりお前が……。」
「…だからそれ…根本的におかしいだろ…。」
美咲は、がっくり肩を落とした。
.
……そして…ホワイトデー当日…。
「…美咲。」
意味ありげに、秋彦は美咲を呼んだ。
「…なんだよ。いらないし、準備なんかしてないぞ?」
「…気が変わった。菓子業界の陰謀に乗っかる事は不本意だが、俺も手づくりというものに挑戦してみようと思う……。」
「…え"っ!?。…いやいやいや…無理しなくていいから。…むしろしないで欲しいんだけどっ。」
「大丈夫…心配するな。手づくりセットを既に購入済みだ。マニュアル通りに作れば問題ない。」
……マジ?
ウサギさんが作るの?
……無理じゃね?
秋彦の破滅的な料理センスを熟知している美咲は…背中に寒いものを感じた……。
Yシャツにネクタイ姿のまま…キッチンに立った秋彦に…恐る恐る美咲は声をかけた。
「…ウ…ウサギさん…無理しなくていいよ?」
「…ふ…。心配するな。…こういうの一度やって見たかったんだよね。」
薄ら笑いを浮かべた秋彦に、一抹の不安を感じた美咲は、キッチンから目を背けた。
…………それから間もなくの事…。
およそキッチンから聞こえるはずのない有り得ない音は、
…今まさに行われている工程を恐怖にかえるに足るものだった…。
荒れ果てたキッチンの後片付けを想像し…悲しみに似た感情が込み上げて来た美咲は、いたたまれなくなり…。
「ウサギさんっ。ごめん。ホワイトデーも俺やるからさ。ねっ!ウサギさんっ!お願いだから、もうやめて。」
美咲は、秋彦の掴んでいるホワイトチョコ入り容器を奪い取ろうとしたが、
「…なんだ。もうすぐ完成するのに。」
頑として、譲らない秋彦と取り合いになってしまった。
「いや…マジ無理だから…。それ離せって!」
勢いをつけ過ぎた美咲は…秋彦が準備していたビターチョコの型の中にホワイトチョコをぶちまけてしまった。
「げっ!…なんてこった…。」
美咲は…がっくり膝を落として落ち込んだ…。
「ご…ごめん。ウサギさん…。」
「…美咲…。お前の気持ちは良くわかった…。」
「…だから…ごめんって……。」
「…お前…器用だな。」
感心したように秋彦は言う。
「なに言って…っ…。」
美咲の唇は…嬉しそうに瞳を細める秋彦によって塞がれた。
「……///。っ…ぷはーっ!なにすんだっ!」
「不器用なやつだな。…言葉に出来ないからと言って…こんなふうに気持ちを伝えるとは…。」
「…は?」
秋彦につまみ上げられた美咲は、…驚愕した。
「なんだこりゃ!?」
視線の先にあったのは…ビターチョコに滲みながらも浮かび上がったハート型のホワイトチョコだった。
「…偶然だっ。偶然!意味ないから…。」
「いや…。これは必然だ。」
「ちっ…違うからっ!ちょっ…どこ行くんだよ!」
「…ベッド。」
「え"っ!?」
鼻歌まじりの秋彦の肩に美咲は担がれた。
「誤解だーっ……///!」
…家中に美咲の悲鳴が高らかに木霊したのだった…。
〔おわり〕