ロマンチカ
□+うちのウサギさん外伝+
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+うちのウサギさん外伝+
……突然
………ドアが開いた。
…眠気を通り越し…焦りを超越して……辿り着いた絶望の淵に立つ俺の前に現れたのは…
「うわっ…と……ちょっ…井坂さんっ!あ…あれ…開かない?」
前に一度会ったことのある少年…?……だった。
何度か、ドアを押したり引いたりした少年は、肩を落とした。
「…キミ…は…。」
俺が声を発すると…
少年は、慌てたように振り返った。
「こここ…こん…にちは…。」
.
「………………。」
「…あ…あの…えっと…。」
「……なに…?」
「井坂さんが…話し相手になってくれ…って……ははっ…すみません。お邪魔ですよね…。」
「………いや…。別に…。煮詰まってたし…。…と…言うより…もう書けない。…自分の限界を見たんだ。」
……そう。
…何も浮かんでこない。
「…じゃあ…無理して書かなくてもいいんじゃないですか?」
.
…はい?……書かなくてもいい?
ポカンと口があいている自分に気づく…。
…今まで言われたことないな……。
「…オレ…先生の作品、毎回楽しみにしてます。…でも…苦しいなら…無理しないで下さい。」
…今…俺が一番聞きたい言葉で…
……欲しかった一言。
「オレ…、先生の大ファンなんです。もちろん楽しみにもしてるけど…いつまでも待つことだって出来るんです。…だから。」
…締切と戦って…
目に見えない圧力と…書き上げなくては…と思う責任感とのせめぎ合いの中で…嫌気がさして…
…何も考えられなくなった自分に…
…いつまでも待ってくれると言う。
…なんか…少しだけ…楽になったような気がする…。
「…キミは…確か……高橋美咲…君…だっけ?」
「は…はい。名前覚えててくれたんですか?!嬉しいですっ。」
……この少年のためになら書けるかもしれない。
……がんばれ…と…決して言わない
…無邪気に笑う…
…この少年のためなら。
「……おっと…。」
……インクがない。
ガチャ…
「………インク。ください。」
「はい?あ…ああ。インクですね?おい、早くインク取ってこい。」
「はいっ!」
担当が走る後ろ姿を眺めていると…
俺の横から顔を出した高橋君がいた。
「……ありがとう。…キミのおかげだ…。」
自然に延びた俺の手は…高橋君を撫でていた。
…自分でもびっくりだ。
……もう少し…こうしていたいと…思った。
………もう少しだけ…。
[おわり]