ロマンチカ

□うちのウサギさん
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ピロロ…ピロロ…



「ウサギさーん、携帯鳴ってるよ。」

ウサギさんは、携帯をテーブルに置きっぱなしにして、鈴木さんを抱いてうたた寝中だ…。

それは、何故か…。当たり前のように電話線を抜いてしまっているから…


「…どうせ、打ち合わせの催促だ…ほっとけ。もしくは、電源を…」


「あーもー何言ってんだよっ!まったく!出ろよっ!大事な用だったらどうすんだよ。」

キッチンに立っていた美咲は、ブツブツ言いながらも急いで携帯の元へと走る。


携帯を開くと、

「…あ。井坂さんだ。……もしもし?…すみません。美咲です。」

『あっ!チビたん!?井坂だけど、秋彦は?』

「…えっ…と。……ウサギさんですか?」

美咲はチラリと秋彦を見る……。

『…電話に出ないって事は…、…あいつ…今日の打ち合わせすっぽかすつもりだな…。』

…う。スルドい…。

「あ…いや…。決してそういうわけでは…」




『いいから、いいから。それに、この電話の用件はチビたんにだし…』


「…え?…オレですか?」


『…そ。あのさ、頼みがあるんだけど…。』


「…オレにですか?」


『うん。伊集院先生…覚えてるかな?』

「え?いっ伊集院先生!?ももももちろんですっ!覚えていますともっ!」

『…良かった。悪いんだけど、今から丸川書店に来てくれるかな?…また、先生落ち込んじゃってさぁ…。』

「えーっ!会えるんですかっ!」


『会えるも何も…、頼むよ。もちろん、お礼はするからさ…。』

「行きますっ!絶対行きます!お礼なんていりません。」

美咲は、人生のバイブル的存在と称する“ザ☆漢”の作者で、尊敬する伊集院先生に、また会えるとあって、自然と声は上擦った。


『ありがと、助かるよ。じゃあ待ってるから…』

…プツン。


「はぁ〜。」

美咲は満面の笑みで携帯を閉じた。



「…美咲。」

地を這うような声音で秋彦が呼ぶと…ギクリとした美咲は、ゆっくり振り返った。


「…あ……あれ?聞いてたの……?」


「…お前……どこへ行くつもりだ?」


「…えーと。ま…丸川書店…?。」

「…何しに?」

…うわ…ちょー不機嫌な顔してる…。

「井坂さんに頼みことされて…。」

「…で?…伊集院…って、あの伊集院か?」

「…うん。会ってくれってさ。」

「…行かなくていい。」

…絶対、言うと思った。

「でも…井坂さんと約束したし……。」

秋彦は、鈴木さんからゆらりと体を起こすと、

「…井坂さんにも、お前の好きな伊集院センセーにも、なんの義理もないだろう…。」

「でっ、でもさ…。」

秋彦は、不機嫌なままタバコに火をつけ、深呼吸するように煙りを吐くと…


「じゃあ。俺も行く。」

………マジですか。




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