ロマンチカ
□うちのウサギさん
1ページ/8ページ
ピロロ…ピロロ…
「ウサギさーん、携帯鳴ってるよ。」
ウサギさんは、携帯をテーブルに置きっぱなしにして、鈴木さんを抱いてうたた寝中だ…。
それは、何故か…。当たり前のように電話線を抜いてしまっているから…
「…どうせ、打ち合わせの催促だ…ほっとけ。もしくは、電源を…」
「あーもー何言ってんだよっ!まったく!出ろよっ!大事な用だったらどうすんだよ。」
キッチンに立っていた美咲は、ブツブツ言いながらも急いで携帯の元へと走る。
携帯を開くと、
「…あ。井坂さんだ。……もしもし?…すみません。美咲です。」
『あっ!チビたん!?井坂だけど、秋彦は?』
「…えっ…と。……ウサギさんですか?」
美咲はチラリと秋彦を見る……。
『…電話に出ないって事は…、…あいつ…今日の打ち合わせすっぽかすつもりだな…。』
…う。スルドい…。
「あ…いや…。決してそういうわけでは…」
『いいから、いいから。それに、この電話の用件はチビたんにだし…』
「…え?…オレですか?」
『…そ。あのさ、頼みがあるんだけど…。』
「…オレにですか?」
『うん。伊集院先生…覚えてるかな?』
「え?いっ伊集院先生!?ももももちろんですっ!覚えていますともっ!」
『…良かった。悪いんだけど、今から丸川書店に来てくれるかな?…また、先生落ち込んじゃってさぁ…。』
「えーっ!会えるんですかっ!」
『会えるも何も…、頼むよ。もちろん、お礼はするからさ…。』
「行きますっ!絶対行きます!お礼なんていりません。」
美咲は、人生のバイブル的存在と称する“ザ☆漢”の作者で、尊敬する伊集院先生に、また会えるとあって、自然と声は上擦った。
『ありがと、助かるよ。じゃあ待ってるから…』
…プツン。
「はぁ〜。」
美咲は満面の笑みで携帯を閉じた。
「…美咲。」
地を這うような声音で秋彦が呼ぶと…ギクリとした美咲は、ゆっくり振り返った。
「…あ……あれ?聞いてたの……?」
「…お前……どこへ行くつもりだ?」
「…えーと。ま…丸川書店…?。」
「…何しに?」
…うわ…ちょー不機嫌な顔してる…。
「井坂さんに頼みことされて…。」
「…で?…伊集院…って、あの伊集院か?」
「…うん。会ってくれってさ。」
「…行かなくていい。」
…絶対、言うと思った。
「でも…井坂さんと約束したし……。」
秋彦は、鈴木さんからゆらりと体を起こすと、
「…井坂さんにも、お前の好きな伊集院センセーにも、なんの義理もないだろう…。」
「でっ、でもさ…。」
秋彦は、不機嫌なままタバコに火をつけ、深呼吸するように煙りを吐くと…
「じゃあ。俺も行く。」
………マジですか。
.