ロマンチカ
□+ハートチョコ+
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+ハートチョコ+
「美咲。……何作ってんだ?」
キッチンに漂う甘ったるい香りに秋彦は眉をひそめる。
「あ。ごめん。バレンタイン用チョコだよ。」
美咲は耐熱ボールを抱えてチョコ作りに余念がない……。
普段家事一切をしきる美咲にとって、それ程難しいものではないが、“友チョコ”と呼ばれるものを作っているため、数がハンパないのだ。
「バレンタインと言えば好きなやつにやるもんだろう…?お前は誰にやるつもりなんだ?」
タバコをくわえ腕組みしたまま、秋彦は不機嫌な表情を露わにしている。
「友チョコだよ。みんなに配るんだ。」
「………なんで?」
美咲は、苦虫をつぶした顔をして…
「あんたのせいだろっ!ここにあんのは、全部ファンからの贈り物だろうがっ。ウサギさんは食べないし、オレだってこんなに食いきれないしっ。大学でバラまくしかないだろっ!」
美咲の指差す先には、山のように積まれた「宇佐見先生へのバレンタインチョコ」だった。
「……なにも…そのまま配ればいいのに……。」
.
「そんなわけにいくかっ!オレが、そのまま持ってったら、“あー宇佐見先生は食べきれないチョコをM大でバラまいた。ファンからの贈り物なのに…。”………なんて噂がたったらイメージダウンじゃねぇか。」
「別にいいけど?」
美咲以外には、まったく興味のない秋彦にとっては、どうでもいいことだった。
「オレが良くないのっ」
怒りながらも、手を休める事なく作業を続けていたチョコ作りは、まもなく終了を迎えようとしていた。
「…俺のは?」
「ウサギさん、甘いもん苦手じゃんか。」
「美咲からの本命チョコなら、大歓迎だけど?」
秋彦は美咲の首に腕をまわし、耳元で囁く。
「……///。んなもん、あるかいっ!」
そう言いつつ、チラリと時計の針を視線だけで見る…。
0時が過ぎたのを確認した美咲は、山ほど丸めたトリュフの脇に、置いていたチョコをヒョイとつまむと、
「ほら。これ…ウサギさん用。」
秋彦の手の上に乗せたのは………、
小さなハート型のチョコだった。
「………///。…小さいから難しかったんだぞ。」
秋彦は、マジマジと眺めたあと、榛色の瞳を嬉しそうに細めた。
「くす。美咲…嬉しいよ。たとえ1個でもな…」
「どうせ食べないだろうけど一応甘味抑えた特別製だから…。」
「…美咲。ありがとう」
そういうと、秋彦はチョコに口づけを落とし、口へと運んだ。
「…やっぱり甘いな。」
「無理しなけりゃいいのに……ぅ…うわっ…///」
秋彦は、美咲のあごを持ち上げると軽く口づけた…。
「美咲…愛してる。………お前はお子様だから愛の告白なんて出来ないだろうが…美咲にしては上出来だ。…チョコ美味しかったよ…。」
「…うっせぇ。」
抱きしめられた美咲は、毒づきながらも秋彦の背中に軽く腕をまわすのだった。
[おわり]