ロマンチカ
□+以心伝心+
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「…美咲。」
不意に美咲を呼んだ秋彦に、明らかにイヤな顔をして美咲は振り返った。
「な…なんだよ?…………やだぞ?」
「なんだ。まだ何も言ってないだろ。」
「…いや。…今の呼び方は、ぜってー何か企んでる…。」
秋彦は、タバコを持ったまま口元を押さえてクスクス笑う。
「なんだよ。何笑ってんだよ?」
「くすくす。…いや…嬉しいなと思ってさ。」
「…何が?」
コーヒーをカップに淹れていた美咲の隣に並んだ秋彦に問いかけた。
「名前を呼んだだけなのに…俺が考えていることがわかるんだろう?……ちなみに答えを聞こうか?」
覗き込むように榛色の目を細めた。
「教えないよ。」
「どうして?」
「…だって…その通りになったら…その…困るし…。」
「お前が考えている答えはハズレているかもしれないぞ?」
秋彦は、意地悪く小さい笑みを浮かべた。
「…キスしたいとか…じゃないの?」
そう言って秋彦に顔を向けると、透かさずあごを持ち上げ…
ちゅっ。
美咲に口づけた。
「なにすんだよ。あぶねえだろ。オレ、コーヒー持ってんだぞ!」
「…ご褒美だよ。答えがだいたい当たってたからな…。」
「…だいたい…ってなんだよ。」
「だから、大凡(おおよそ)という意味だ。」
「意味聞いてんじゃねーよ。答えあってたのに、なんで半分当たりみたいな言い方すんのかって事だよっ。」
「…そりゃ、続きがあるからに決まってる。」
「…続き?………っ。………///。」
秋彦は、美咲の腰を引き寄せると、
「伝わったようだな…。」
「…いや…ウサギさん…ちょっと待って…。」
「こういうのを以心伝心って言うんだろうな。」
「違いますっ。誤解ですっ。オレ全然そんな事思ってないから!」
「だめだな。…俺がしたいから。」
「やだって。ウサギさんっ!」
「…言葉は時として、ウソを表す事がある…。」
秋彦に担がれた美咲の悲鳴が…ほどなく甘い吐息に変化したことはいうまでもない…。
[おわり]