ロマンチカ
□秋野宮談論
1ページ/6ページ
ピロロ…ピロロ…
「美咲か。大学終わったのか……?」
『うん。でも、今から大学出るから少しだけ遅れるかも…』
「迎えに行こうか…?」
『大丈夫だよっ。1人で行けるし、それにあの車で来られたら目立ってしょうがないよ。』
「早く会いたい。」
『今朝会っただろっ。お願いだから待っててくれよ。あ、電車来た。近くなったらまた電話するから。じゃあね。』
…プツン。
「…ったく。」
秋彦は、仕方なくラウンジで待つことにした。
しかし、端正な顔立ちをしている上に、超がつく程有名な小説家である秋彦は、目立ち過ぎ…居心地が悪かった。
仕方なく、人目につかない席を陣取り、コーヒーを飲んでいると…
「あの…宇佐見さんですよね?」
さっきから、秋彦はこの手の声のかけられ方にウンザリしていた。
チラリと視線だけ送ると、それは見覚えがある顔で…。
「君は…。弘樹の…?」
「はい。ご無沙汰しています。」
野分は、丁寧に頭を下げる。
「ああ…。どうしたんだ?こんなところで…。」
「今日は、小児科の教授の講演がありまして…。もっとも…今日このホテルでは、他にも学会やら、研究会があるみたいですけど…。」
「…そうか。だからやたらと人が多いのか…。」
秋彦は、納得しながらも、明らかに不快だという顔をする。
「座れば?…どうせロビーは人であふれかえってるんだろ?」
実は…野分もあまりの人の多さに身動きがとれず、落ち着くまでラウンジで時間をつぶそうとしていたのだ。
「え?いいんですか?」
「かまわないよ。」
野分は、一礼した後、遠慮がちに同じテーブルにおさまった。
「君は…弘樹と付き合って何年?」
「…ええと…知り合って6年になります。」
秋彦に、“付き合って”何年と聞かれた野分は、微妙に言葉をすり替えた……。
「…そんなに警戒しなくてもいいだろう?」
秋彦は、小さく笑う。
「…笑うんですね。」
野分の一言に対して、
「…弘樹から君の話ばかり聞かせられるよ。」
と、答えた。
そんな言葉に、やや驚いたような野分は、
「…そうなんですか?」
「ああ。」
そう言ってタバコをくゆらせると、やわらかい表情をみせる。
そこへ、
「あー。すいません。そこ空いてます?…って、あれ?…君は上條んとこの…だよね?」
「…宮城教授?」
意外なところで、意外な人々が集まってしまった……。
.