エゴイスト
□日常。
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………真っ白な雪が降り出した。
いつもの如くすれ違いの日々が続き…
あいつの顔をしばらく見たことがなかった…。
野分は、傘を持って行っただろうか…。分厚い雲が広がる空を眺めながら思った。
玄関先に置いてある傘を見ると…オレと野分の2本ちゃんと揃っている。
「…だよな。昨日の予報じゃ降水確率0%だったもんな。」
さすがに駅からじゃ家に着くまで濡れてしまうだろう…と、傘を掴んだ弘樹は、駅まで野分を迎えに行くことにした。
「さすがに寒いな…。」
吐く息は、雪に負けないくらい白く、新しい空気を吸い込むと喉の奥に冷たさが染み渡る。
駅に着く頃には、体の隅々まで凍えていたが…野分に、もうすぐ会えると思うと不思議と心だけは…あったかい。
駅前あたりに人が多くなってきたな…。
「電車…着いたのか?」
野分をたくさんの人の中から探し出すのは、容易(たやす)いことだった。
だって…頭ひとつ分出てるから…。
「ヒロさん。」
なのに…たくさんの人の中に紛れるオレを…
……お前は、なぜ…すぐ見つけることが出来るのだろう。
「ヒロさん。ただいまです」
「お帰り。」
「迎えに来てくれたんですか?」
「ん?…まぁな。」
短い返事をして、ぶっきらぼうに傘を渡すが、
それでも野分は嬉しそうに笑う。
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