エゴイスト

□野分的自我
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…ヒロさんが…口をきいてくれません。



今日、何か文庫本を買ってきたみたいなんだけど…。

カバーがしてあって…なんの本か…わからない。

ただ、言える事は…その本を読み始めてから不機嫌になったという事だけ……。

「ヒロさん…?」

「………なに?」

「…なにかありましたか…?」

「いや?…なんで?」

「……なんか怒っているみたいだから…。」

「別に…怒ってない。」

…なら…なんで?



「…あー…オレ風呂入ってくる。先にいいか?」

「…はい。」

ヒロさんは本を閉じるとテーブルに置いて風呂に行ってしまった。




見たら…ダメだろうか?

でも、ヒロさんは見るなとは言わなかったし…

ちょっとだけ…見てもいいかな。

ヒロさんは本が好きな人だから、しょっちゅう埋もれている。

いろんな本を読むヒロさんだから何を読んでいるか…あまり関心はなかったのだが…今回ばかりは、とても……気になる。

そんな事を思いながら、その本を手に取り開いてみた。

“純愛…エゴイスト”?


「ヒロさんにしては…珍しい…かな?」

作者は“秋川弥生”…。

内容は……。

……え?

…弘樹?……野分?


俺と同じ名前?

自分で言うのもなんだけど…俺の野分という名前には、台風の意味がある…はっきり言って珍しいから、あまりないと思うのだが…。

…ここに書かれている登場人物は、中條弘樹と、風間野分…。微妙に違うけど、

これを、偶然と呼ぶには…あまりにも無理がある…。

俺とヒロさん…?

パラパラと斜め読みすると……

……あれ…///。

これって、恋愛小説?

絡んでる描写もあるんだけど…。

これを読んで、どんどん機嫌が悪くなっていくって事は……





……つまり…俺とするのがイヤって事………?




「あーっ!野分っ!なに人の本読んでんだっ!」

「え?!あ…すみません。」

ヒロさんは、すごい勢いで駆け寄ると、俺の手から本を取り上げた。






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