エゴイスト
□野分的自我
1ページ/5ページ
…ヒロさんが…口をきいてくれません。
今日、何か文庫本を買ってきたみたいなんだけど…。
カバーがしてあって…なんの本か…わからない。
ただ、言える事は…その本を読み始めてから不機嫌になったという事だけ……。
「ヒロさん…?」
「………なに?」
「…なにかありましたか…?」
「いや?…なんで?」
「……なんか怒っているみたいだから…。」
「別に…怒ってない。」
…なら…なんで?
「…あー…オレ風呂入ってくる。先にいいか?」
「…はい。」
ヒロさんは本を閉じるとテーブルに置いて風呂に行ってしまった。
見たら…ダメだろうか?
でも、ヒロさんは見るなとは言わなかったし…
ちょっとだけ…見てもいいかな。
ヒロさんは本が好きな人だから、しょっちゅう埋もれている。
いろんな本を読むヒロさんだから何を読んでいるか…あまり関心はなかったのだが…今回ばかりは、とても……気になる。
そんな事を思いながら、その本を手に取り開いてみた。
“純愛…エゴイスト”?
「ヒロさんにしては…珍しい…かな?」
作者は“秋川弥生”…。
内容は……。
……え?
…弘樹?……野分?
俺と同じ名前?
自分で言うのもなんだけど…俺の野分という名前には、台風の意味がある…はっきり言って珍しいから、あまりないと思うのだが…。
…ここに書かれている登場人物は、中條弘樹と、風間野分…。微妙に違うけど、
これを、偶然と呼ぶには…あまりにも無理がある…。
俺とヒロさん…?
パラパラと斜め読みすると……
……あれ…///。
これって、恋愛小説?
絡んでる描写もあるんだけど…。
これを読んで、どんどん機嫌が悪くなっていくって事は……
……つまり…俺とするのがイヤって事………?
「あーっ!野分っ!なに人の本読んでんだっ!」
「え?!あ…すみません。」
ヒロさんは、すごい勢いで駆け寄ると、俺の手から本を取り上げた。
.