エゴイスト
□きらり
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「なぁ…上條。あのさ……」
夕方、宮城が論文作成中の弘樹に声をかけてきた。
「はい。なんですか?」
弘樹は、追い込みに入っていたので、なるべくなら集中したかったが、上司から話しかけられて無視するわけにもいかず、返事をした。
「……恋人に贈り物をするとして…お前なら、何にする……?」
宮城の恋人は、学部長の御子息…忍君だ。宮城とは歳も離れているし、何が欲しいのかなんて検討もつかないのだろう。
「………贈り物…ですか…。……………。」
今聞かれても、弘樹には、何が欲しいかなんて思いつかない。実際、野分に何か買ってやろうと思っても自分だってわからない。
「………明日まで考えてきます。」
さしあたって自分に課せられた論文が終わらないうちは、あれこれ考えられないからだ。
家に帰ると野分に出迎えられた。
「……ただいま。野分、いまから仕事か……?」
「はい。今日は遅かったですね。ご飯作っておきましたから、食べて下さいね。」
野分は、弘樹の帰りが遅いと夕飯を作ってくれている。
「野分は…食ったのか?」
「…今、食べます。」
野分は、ひゅっと弘樹を抱き寄せると素早く口づけた。
「…んっ。こらっ、野分っ。なんだ突然!」
「夕飯です。ご馳走様でした。」
イタズラっぽく黒い瞳を細める。
「ったく!………あ、野分…ちょっと聞きたいんだけどさ…」
「……はい?なんですか?」
「……仮に…何か欲しいものがあるか…と聞かれたら、お前なら何が欲しい?」
キョトンとした顔をした野分は、
「ヒロさん。」
と、弘樹を指差した。
「…///。ばかっ!そうじゃなく……」
「………そうですね。俺はヒロさんがくれる物なら、なんでも嬉しいですけど…。」
野分の…答えに一瞬めまいがした。
「…そう。」
こいつに期待したオレがばかだった…。
「………じゃあ、行ってきます。」
野分は、ニッコリ笑って仕事に出かけた。