エゴイスト
□思考回路
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今日は、弘樹は野分と秋物の服を買いに町へ出て来ていた。
弘樹の服は、割とすぐに見つかるのだが、背の高い野分の服となると、なかなか探すのに苦労した。
「お前…、ホント無駄にでけぇよ……。」
「すみません。ヒロさん……。」
野分は苦笑いする……。
「ったく。次だ、次!次の店行くぞ」
弘樹は、面倒くさそうに言ってはいるが、実はこうして野分と2人で歩くのが結構好きだった。
道路の向かい側に、いい感じの店を見つけた弘樹は、
「おい、あそこ。行ってみようぜ。」
野分の腕を引っ張り、店の前まで来た時、
「……弘樹?」
聞き覚えのある声に、振り向くと、…………幼なじみの秋彦が立っていた。
「げーっ!あっ秋彦!」
「……なんだ。…その、げーっ…て……?」
秋彦は、眉間にシワをよせた。
「うるせー!突然現れるなっ!びっくりすんだろ……。」
「突然…って、お前な…勝手に俺の前に出て来て何言ってる…。」
タバコの煙をくゆらせながら、秋彦はため息混じりに呟いた。
「こんにちは。宇佐見さん、お久しぶりです。」
野分は、丁寧に挨拶しながら、さり気なく弘樹の前に立つ。
「はい。こんにちは」
棒読みの挨拶に聞こえるが、秋彦にしては上出来だ。
「秋彦、お前は、なんでこんなとこにいるんだ……?」
世界中に知れ渡っているようなブランドしか身に付けないヤツが、庶民的な店(っても、この辺のはランクは、かなり高いんだけど)の前にいることが、弘樹は不思議でしょうがない。
「……買い物。」
「……お前…物書きのくせに、言葉が少なすぎだ……。」
「ウサギさん。お待たせ、タコ焼き買って来たよ。………あ、ごめんなさい。話し中……げっ!」
秋彦に『中流家庭の人が町で食べる物が食べたい』と、ねだられた美咲は、近くで売っていた、タコ焼きを買ってきたのだった。
しかし…秋彦が話していたのは、自分が通うM大助教授………鬼の上條と二つ名を持つその人だった。
美咲のリアクションに、
「お前……見たことあるぞ……。」
弘樹は、記憶のファイルをめくる……。
「……そうだ、お前は確か、うちの大学の学生だよな?」
「…あ、はい……。」
思いっきりバレてるっ!
美咲は、秋彦と2人で、買い物中で…それも…人気小説家にタコ焼きを買ってくる関係で……
「あわわっ!ウサギさんっ、どうしよっ!」
慌てて、秋彦に小声でたすけを求める。
「……普通に言えばいいだろ。宇佐見秋彦に唯一愛されている恋人だ……って。」
耳元で囁き、耳朶をペロっと舐めた。
ズサーっ。
美咲は、すごい勢いで後ずさる。
「おい、弘樹。紹介しよう……。こいつは…」
「だーっ!ウサギさんは家庭教師なんです。にいちゃんの知り合いでっ」
美咲は、秋彦の言葉を遮り、「言ったらコロス!!」と言わんばかりに睨み付ける。