エゴイストU

□+逃げるが勝ち+
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暑かった今年の夏も、なんとか落ち着いて…

「さすがに、この時期になると過ごしやすいよな…。」


「…そうですね。」


野分と休みが重なり、久しぶりにデート行こうって事になった。

ブラブラ街を歩いていたら、珍しく「ココがいい。」と、野分が言う。


…なんでオープンカフェなのか、わかんねぇけど。


「なんか、いいですよね。恋人同士のデートコースの定番って感じで…」

……ホントは、

家でゆっくり過ごした方が良かったんじゃないか…なんて思ったけど、

幸せそうに笑う野分を見ると…まぁいいかなと思ってしまう。

「…そうだな。」


パラソルの下で、道行く人々を2人で眺めるのも悪くない…。

…こんな、一見無駄とも思える他愛ない時間でも……大切に思えるのは、互いに忙しくて一緒にいられる時間が極端に少ないって事もあるんだろうな。


「ヒロさん、…手を握ってもいいですか?」

テーブルクロスに隠れた野分の手が、そっと触れてくるのがわかる。


「…バカたれ///。少しは人目ってもんを気にしろよ。」


…手…握りたい。


握りたいけど…オレのちっぽけな理性が、それをさせてはくれない。


…オレは素直じゃない。

チラッと野分を見れば、シュンとした顔で謝られてしまう。

「…すみません。」



…ああ。また、こいつをしょんぼりさせてしまった。

…それは、オレが最も苦手とする表情だ。


「オ…オレ、コーヒーとってくるけど、お前は何がいい?」


「あ…それなら俺が…」

席を立とうとする野分の肩に手をやり、

「…いいよ。オレが行ってくるから。」

…ちょっとした罪ほろぼしみたいなもんだ。

「じゃあ、俺、カフェオレがいいです。」

「カフェオレだな。ちょっと待ってろ。」


「はい。ありがとうございます。」

黒い瞳を細めて優しく笑う野分に、ホッとしながらカウンターへと向かった。





カウンターについたオレは、カフェオレとコーヒーを注文しトレイにのせた。

ついでにプチケーキが並ぶショーケースから、ブランデーケーキとクルミロールケーキを1つずつ受け取り、野分の元へと足を向けた。


………野分は、…っと。


さっきより幾分混雑し始め、あれだけガタイの良い野分が見当たらない。

キョロキョロと捜していると、

人が行き交う隙間から野分の姿を見つけた。

傍に立つ女性が、オレの野分に何やら話かけている。




「ご一緒させてもらっていいですか?」

おい…そこの女。混み始めてるっていっても、他にいくらでも席空いてるだろ。

「あ…俺1人じゃないので…。」

…その通りだ。

「彼女さんと一緒?」

「彼女?……ではないですが…。」

…確かに、オレは“彼女”ではない。

「えー。じゃあ彼女いないんですか?」

「…ええ。…彼女はいませんけど…こぃ「じゃあ、立候補しちゃおうかなっ。」…ならいます。」

女は、そう言って野分の話に言葉を被(かぶ)せた。

…なぁ野分。

…困った顔をする前に

もう少し、迷惑そうな顔しても良いんじゃないか?




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