エゴイストU

□E黒の瞳
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「……ヒロさん。」


野分は、ドアの前に立ち尽くし愛しい人の名を呼んだ。


「無理言って…すみませんでした。」


ライルは、野分の背中に声をかけた。


「…いえ。…いつかは…こうなるような気がしてました。紫音さんの気持ちは本物で…あのままで終わるとは思いませんでしたから…。」


「……そうですね。私は初めてシオン会った時、何か思い詰めていて…がむしゃらに仕事をこなしていました。体を壊してしまうのではないかと…。…私は、シオンを放ってはおけなくて…マネージメントを買って出たんです。」


ライルは、出会った頃を思い出すように言葉を紡いだ。


「シオンは一度だけ、とても酔った時がありまして…。その時に、…その…上條さんを無理やり抱いたと…。」

野分は、ゆっくり振り返り眉をひそめた。


「…紫音さん…話したんですか?」


「…はい…とても後悔していると…。彼は彼なりに傷ついて苦しんでいるようでした。…普段は、何でもないようでも、心の奥底では大好きな人にヒドい事をしてしまった…。そんな負い目を感じていたのでしょう…。」


……決して…許される事ではない。

受けた傷と、与えた傷は…相反しているけれど、同じように苦しんでいるということなのだろう。



「…それでも…俺は、紫音さんを許そうとは思いません。」


野分は、そう言って唇を噛んだ。


「シオンも、それはわかっていると思いますよ。…そして、傍目(はため)から見ても分からないような上條さんの心の痛みを癒せるのが…自分でないこともね…。」


ライルは小さく笑った。

「ヒロさんは…自分で解決しました。俺は、傍で見守ることしか出来ませんでした…。」

野分はドアを見つめた。


「でも、それは…野分君にしか出来ないことなんですよ。…きっと上條さんは、あなたが傍にいてくれたから立ち直ることが出来たんですね。」


「…紫音さんには…支えになってくれる人はいるんでしょうか…?」


「ふふっ。どうでしょうね…。もしかしたら、それは私かもしれませんね……。」


「えっ?…だって紫音さんは、ヒロさんを…。」


野分はライルの予想外の発言に驚き振り返った。


「そうですね。…でも私は、そんなシオンを愛しいと思いますよ。あんなに一途に1人の人を想うシオンだからこそ…私は惹かれている…。」


野分は…ライルを初めてマジマジと見た。


グレーの瞳を持つ彼は、そこいらあたりの芸能人も霞んでしまうくらいの艶やかさなのに、上手くそれを隠しているようだ。




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