エゴイストU

□C青の瞳
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「上條セ〜ンセ、久しぶりぃ。」




大学構内に響き渡る聞き覚えのある声に、

眉根を寄せたM大助教授上條弘樹は振り返った。



「……………紫音か?」

たっぷりの間をおいて、少し男らしくなった紫音の名を呼んだ。

「上條さん。それヒドくないですか?。なんかすっかり忘れちゃってました〜。…って感じで。」


「…いつ…こっちに帰って来た?」


「んー…さっき。空港から真っすぐ来たんだ。もちろん、“ヒロさん”に会いたくて。」


相変わらず飄々とした態度と、弘樹の癇に触る一言は健在な紫音だった。



「くすくす。怒んないでよ。今日は、上條さんの顔見に来ただけだし…」


壁にもたれ…深く帽子を被った紫音は、肩をすくめて小さく笑う。



「……じゃあ、帰れ。顔見ただろ。オレはお前と違って忙しいんだよ。」

弘樹は、不機嫌な表情でそう言い放つと踵を返しサッサと歩き出した。




「…相変わらずだな。上條さんって可愛い。」



愛おしげに、弘樹の後ろ姿を見送るとリュックを肩にかけ直しその場を後にした。











………すっかりオレの記憶から抹消してたのに、また…のこのこ現れやがって。


両手に抱えていた資料を乱暴にパソコンの脇に置くと、椅子にどっかり腰かけた。



あいつに無理やり抱かれて、結構参ってたオレを野分が癒やしてくれたっけ…。



なのにっ!また出て来やがって!



「…………はぁ。」


ピロロ…ピロロ…。


情けない溜め息をつくと、携帯が鳴った。


……野分?


「もしもし?」

『ヒロさんすみません。今日、ヘルプ入っちゃって帰り遅くなります。』

そっか…遅くなんのか。

「いいよ、いつもの事だろ?」

『すみません。今晩俺が当番だったのに…。』

電話の向こうから、しょんぼりした声が聞こえる。

「ばーか。んなこと気にすんなよ。じゃあな。」

『…あっ…ヒロさん。』

「なに?」

『愛してます。』

…少し嫌な記憶が甦ってたから、この一言が優しく心にしみる。


「…オレもだよ。」

『…え?』

「な…なんだよ///。」

『なにかあったんですか?』

…誰か、こいつの勘の良さを何とかしてくれっ!

「…なんもねぇよ。」


『…なら…いいですけど。』

紫音の顔見たくらいで、動揺してる自分が情けない。


「…仕事頑張れよ。」


『はい。』


弘樹は、携帯を閉じてポケットにねじ込むと、ふーっと溜め息をつき、論文の資料を開いた。




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