エゴイストU
□+津森サンタ+
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◆津森サンタ◆
クリスマスは、つらい治療をしながら病院で過ごす子供達にとって、楽しみのひとつだが…今年はひと味ちがう。
シャンシャンと鈴の音が響くと、今にも脱皮出来そうな着ぐるみのトナカイと一緒に登場したのは、顰めっ面を必死に隠そうとしている上條さんのサンタクロース姿。
「くすくすっ。一応、気ぃ使ってくれてるわけね…。」
肩を揺らしながら口元をおさえる俺に、
「先輩…笑わないで下さい。頑張ってるヒロさんに失礼ですよ。」
野分が小声で諫めた。
「だってさぁ、あのギャップが面白すぎ…。」
ベルトで絞めたブカブカの衣装は、気の毒なくらいに丈の短い可愛いワンピースになってるし、丸みのある赤いブーツを履いた綺麗な脚は男の俺から見ても魅力的なのに、
当の本人は、苦虫を噛み潰したような表情だ。
それでも、ワクワクしながらサンタを見上げる子供達にプレゼントを手渡す上條さんは、笑みをはり付け立派に勤めを果たしている。
「しっかし…よく着てくれたよね…。しかも生足…。上條さんの性格からすると、相当暴れたんじゃねーの?」
壁にもたれて野分の耳元に顔を寄せた津森は、そのまま弘樹を横目に見ると
たまたま野分に視線を向けた弘樹と目が合ってしまう。
「……ええ。…すごく嫌がってましたけど。そこは…はい…。」
野分のニヤけた口元に、なんとなく想像がつくから始末におえない…。
「上條さんってば健気だね〜。」
俺に気づかれたのが恥ずかしかったのか、上條さんは真っ赤になり、ふいっ…と顔を背けてしまった。
………か…可愛い…。
「………先輩、あまりヒロさんを見ないで下さい。」
不覚にも、「可愛い」そう思ってしまったのは…俺だけではなかったらしい。
……あたりまえといえば…あたりまえか…。
「…別にいいだろ。減るもんじゃなし…。いやぁ、俺も今まで色んなサンタ見たけど、こんな色っぽいサンタは初めて見たっつーか…。ありゃ犯罪だろ…。」
見ろよ、ナース達の羨望の眼差しを…。
「先生ー、プレゼントもらったよー。」
嬉しそうな顔で野分に駆け寄ってきた子供達は、自慢げにプレゼントを見せびらかす。
「良かったねー。でも、先生ももらったんだよ。」
「ホントに?なにもらったの?」
くすくすと笑いながら子供の頭を撫でた野分は、
「………内緒。」
そう言って、薬指にはめられた指環にキスをした。
はーん。今年のプレゼントは指環ってわけね…。
「薬指って、…上條さんも大胆だね〜。」
………なんだろう
一瞬、腹ん中が灼けるような…この感覚…。
「あ、これ…ペアなんですけど、薬指用ってわけじゃないと思うんですよ。」
………ああ…そっか、
この感情は…ここんとこマジな恋愛に縁のない俺の嫉妬ってやつ?
「くすっ、なにそれ?意味わかんねー。」
「たぶん、どれかの指に合えばいい…ってくらいで贈ってくれたんだと思います。たまたまピッタリだったのが、薬指ってだけで…。」
それでも…彼が野分のために選んで贈ったのだ。
「くすっ、随分テキトーだな。」
俺も…上條さんみたいに一途な人に出会えたら、誰かを本気で好きになれるだろうか。
「それでも…嬉しいです。」
「はいはい、ごちそうさん。じゃあ、俺は頑張った上條さんにご褒美あげなきゃな…。」
「先輩?」
「ここの後片付けは俺が手伝ってやるから、お前は控え室の方を頼むわ。あっちもソコソコ散らかってんだろ?」
「はいっ、ありがとうございます///」
…………上條さんへのプレゼントは、野分と二人で過ごすための細やかな時間…。
………俺って、けっこうサンタに向いてるかもしれない。
merry X'mas
(おわり)