エゴイストU
□+サンタ見習い+
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◆サンタ見習い◆
………今年は
野分が仕事なので、早々と一人ぼっちのクリスマスが確定した…。
まぁ…去年のクリスマスを一緒に過ごせたこと自体…奇跡みたいなもんだったからな。
ひとりごちの弘樹は、野分に手渡すはずだった小さな袋をつまみ上げ苦笑いした後、上着のポケットに捩じ込んだ。
次の日のこと…
弘樹が研究室のドアに手をかけると、
「あ、いたいた。上條先生ー。」
学生数人が、小走りに弘樹の元に走ってくる姿があった。
「…………?」
何だろうと、首を傾げながら待っていると…
「いやー、走るのキツい…。」
そう言って、ひとりフウフウと息を切らしているのは、高校の時に相撲部に所属していたという小鳥遊(たかなし)だ。
「あの…これ…」
握りしめていたプリントを差し出しながら呼吸を整える。
「小鳥遊…お前少し痩せた方がいいんじゃないか?」
小鳥遊は、弘樹が顧問をしているゼミの学生だった。
「先生に、相談がありまして…。」
「…………相談?」
数字が並ぶプリントに視線を移すと、
「実は、文化祭でやった模擬店の売上が結構…というか、先生のおかげでスゴい黒字だったんですよ。」
「……あー。あれな…。」
途端に弘樹の眉間には、深々とシワが刻まれる。
「昨年は、メイドカフェ。今年は男の娘カフェ…先生が協力してくれたおかげで大盛況の満員御礼…。」
そう…昨年は無理矢理メイド姿にされ、今年は止むに止まれぬ事情から女装させられてしまったのだ。
暴れる弘樹を学生達が説得し女装させたものの…可愛らしいフリフリピンクのワンピース姿で不機嫌極まりない弘樹は、カフェの隅っこで腕組みしたまま遠慮なく客を睨み付けていたが、
上手いことメイクされていたので、“鬼の上條”が、いま目の前にいるとは…事情を知るゼミの連中以外に気づく者はいなかった。
ただ、「男の娘カフェに、壮絶なまでに美しい人がいる。」という噂があっという間に広がり、一目見たいと野次馬が殺到したため、カフェの中に人が溢れ…自分が見られていることとは露知らずますます弘樹は不機嫌になっていった。
今年の文化祭に、野分が仕事で来られなかったのは、不幸中の幸いだった。
あんな情けない姿を見られたら、オレの面目丸潰れだ。
「経費を差し引いても、打ち上げの飲み代引いても、この金額が余ってるんですよー。」
そう言いながら、小鳥遊がプリントの一番下を指差す。
「………確かに高額だな。」
「それでですね、みんなで相談して…これを来年度に繰越すよりも、慈善事業みたいなことして、ある程度使っちゃうってのもいいかなって話になりまして…。」
一緒にいた学生が一斉に頷いた。
「ふーん。いいアイディアだと思うぞ。…で、何をするか決まったのか?」
…………無駄に使ってしまうより、よっぽどいい。
弘樹が同意すると、
「良かったー。実は、サンタクロースがクリスマスプレゼントを配るって企画を考えたんです。」
ホッとしたように小鳥遊が話を続けた。
「………へぇ…。どこに?」
「そこなんですが…保育園とか、児童施設とか…まだ検討中なんですよ…。でも、大学名使うし、決まったら先生にも引率してもらおうと思いまして…。」
「ああ、そういう事ならお安いご用だ。…大学側にはオレの方から話しといてやるよ。」
どうせ、クリスマスの予定ないんだし…。
弘樹は小さく笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。詳しく決まったら、先生に連絡します。」
小鳥遊達は、ペコリと頭を下げると…企画を実行に移すべく、賑やかに廊下を戻っていった。
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