ロマンチカU
□ウサギとミサキの小旅行
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「旅行に行きたい。」
「………の前に仕事終わらせようよ。」
いつもの事だが、宇佐見秋彦大テンテーは締め切りが近づくこの時期…逃避行したくなるらしい。
「…無理。書き上げるためのモチベーションが低すぎる…。」
「…モチベーション…って…あのさ…。んなこと言ってる場合じゃないんじゃない?」
………そう。はっきりいって時間的な余裕などないのだ。
つか、なんでオレが相川さんみたいに追い込みかけてるか…って、
…それは…ずっと張り付いていた相川さんの代わり。
別の用事で一旦丸川書店に戻る事になった相川さんに…
“逃げないように、監視してるだけで良いから”と頼まれて仕方なく引き受けたのだが、
追い込みをかけられているはずの本人は、ソファーで鈴木さんに甘えるように寄りかかり、ダラダラとタバコをくゆらせている。
締め切り間際の如何(いかん)ともし難いこの体(てい)たらくに、さすがの美咲も口を挟まずにはいられない。
「頼むから仕事してくれよ。終わったら、旅行でもなんでも行けばいいじゃん。」
「…今…のんびりしたい…。」
「してるだろうがっ。」
「…………。やだ。」
おい、コラっ!
…いや…待て…ここでウサギさんを怒鳴ったところで、事はすすまない。
…ここはひとつダメもとで、餌を捲いみるか。
「ウサギさんの原稿終わったら、オレも一緒に旅行に行きたいなぁ…なんて…。」
「あ…なんか、ちょっとだけモチベーションが上がって来たような気がする…。」
…もうチョイか?
「じ…じゃあさ、その旅行先でウサギさんの疲れがとれるように、なんでもしてやるよ?。」
美咲が冗談っぽくそういうと、怠そうにしていた秋彦は体を起こし確かめるように呟いた。
「………なんでも?」
「え?……あ…うん。」
……なんか、マズい?
「一泊旅行の準備をしておいてくれ。」
秋彦はソファーから立ち上がると、そのまま仕事部屋に籠もってしまった。
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