エゴイストV

□バレンタインー2020ー
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・・・2月14日。
巷では、チョコを渡して愛の告白をするという一大イベントの日だ。

そもそも好きなヤツに告白する日なわけだから、成就している者が
チョコを片手に再び告白するのは、おかしい。

・・・はずだ。

でも、野分は・・・毎年毎年オレに期待してる。

いや、毎度毎度渡してるオレもオレなんだが・・・。

だって、あいつは、年がら年中オレを好き好き言ってるし。

オレも極々たまに、稀ではあるが、好きって言うし。

今更・・・だし・・・。

だから、オレは、敢えて、今年は、準備していない。
・・・準備してはいないのだが・・・

勤務明けで、とっくに帰ってきてるはずの野分が帰ってきてないってことは
明日も帰ってこないかもしれない。

そんなの、いつものことだ。もう慣れてるけど・・・。

あいつの・・・喜ぶ顔が見たいってこともない・・・こともない。。

「しゃーない、買ってくるか・・・。」

弘樹は、コートを羽織ると夜の街へと歩き出した。

この時間、近場で開いてるといえばコンビニくらいだけど、

ビールと、ちょっとしたツマミと、ついでにチョコを買うことは
不自然ではないはずだ。

さすがに前日ともなると、数は少ないが

「・・・吟味してしまった。」

店の外に出た弘樹が一歩踏み出そうとすると、見慣れたやつが通り過ぎる。

「・・・っと、の・・・野分?」

弘樹の声に足を止めた野分が、振り返った。

「えっ・・・?あ、ヒロさん、買い物ですか?」

いつもなら、飛びつく勢いで近寄って来るのに・・・どこか様子が変だ。

「どうかしたのか?」

「えっと、ちょっとボーっとして・・・」

野分は黒い瞳を細めて小さく笑うと、

「熱出てたりとかしてんじゃねーの?」

弘樹がそっと野分の額に手を当てる。

「結構・・・熱くねぇか?」

「大丈夫ですよ。ちょっとフワッとするだけですし。」

「お前、働きすぎなんだよ。」

「すみません」

弘樹は急いでコートを脱ぐと野分の肩に羽織った。

「体しんどいなら寄りかかっていいぞ。」

「いえ、それほどじゃないので。・・・それに、これじゃヒロさんが
寒いでしょ。俺、大丈夫ですから。」

と言いながらも、足元はフラフラだ。

「お前さ、具合悪い時くらい、オレにちゃんと頼れよ。」

弘樹は、ため息をつくと野分の腕を自分の肩にまわした。

「ほら、帰るぞ。」

「はい、すみません。」

肩から伝わってくる体温の高さが、いつもと違っていて少し心配になる。

「なんか・・・いいですよね、人前で堂々と体をピッタリ寄せて歩けるって。」

「アホかお前。そういう状況じゃねーだろ。」

「それでも・・・嬉しいです。」

こんな時でも笑みを浮かべる野分に

「ほら、着いたぞ。オレのコートからカギ・・・っ!?…お、おいっ///」

玄関先で寄りかかって来る野分にあせりながらコートのポケットをまさぐった。





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