エゴイストV

□+初詣+
1ページ/1ページ








「…………。予想はしてましたけど…すごい人ですね。」



初詣で混雑している境内で、頭一つ抜きん出ている野分は辺りを見回し呟いた。


「…当たり前だ。正月の三が日だぞ。混んでるに決まってんだろ…。」


運良く休みが取れた野分に「初詣に行きたい。」とねだられた弘樹は、渋々近くの神社まで来たものの…人波に揉まれウンザリしていた。



「ヒロさん、手をつなぎませんか?」


「ば…///…ばか、なに言ってんだ、誰かに見られでもしたら…」


混雑の中で体を押され、よろめきながら弘樹が真っ赤になると


「だって、すごい人ですよ?はぐれちゃったら、探すの大変だし…」


野分は人混みから弘樹を庇うように肩を抱きよせた。


「だからっ///隣歩いてりゃ大丈夫だろ…っ…」


腕を突っ張って野分から逃げ出した弘樹は、


「………えっ?……あ…あれ…!?」


急に人の流れに押し流される。


「ヒロさ…っ」


野分が延ばしてくれた手をつかみ損ねた弘樹は、

「とっ、鳥居のとこで待ってる…っ」



とりあえず、後で会えるように野分にそう言ったが、あっという間に見失ってしまった。







眉間にシワを刻み、一人でガランゴロンと鐘を鳴らして形式的に柏手を打つ弘樹は、願い事もへったくれもあったものではない。



さっさと野分を見つけて家に帰りたいと、キョロキョロと探すが一向に見つからず…


「まいったな…。」


小さく溜め息をついた。



「この辺で待ってりゃ、そのうち来んだろ…。」


無闇に動きまわるのをやめ、鳥居の傍に寄りかかり通りすぎる人を眺める。


「………ん…?」



ふと、目をとめた先には、巫女さん姿のバイトの子達が忙しそうにしていた。


「……御守りか…。」


そういえば、野分に御守りをあげたのは受験の時以来だ。


実力主義の弘樹としては、神頼みだの御利益だのと、それほど信心深いわけではないが、

野分のこととなると話は別で、合格祈願の御守りをあげていたのだ。

必要ないくらいの学力は備わっていたが、思いの外野分は喜んでいた。


「………くすっ。今、あいつに必要なのは、これか…。」



神社の儲けに乗っかるわけじゃないが、激務に身を置く野分には一つあっても良いだろう…と、御守りを買って、鳥居の所へ戻る。


「ヒロさーん!」



声がする方を見ると、恥ずかしいくらいに野分が手を振り走ってくる。



「………良かった…。はぐれちゃって…どうしようか…と。」


息を切らせながら、ホッとした表情を浮かべる野分に、


「鳥居のとこにいるって言ったろうが…。」


溜め息をつきながら御守りの入った袋を手渡した。



「これ…御守りですか?」



無病息災の御守りに野分は目を細める。


「まっ待ってる間…暇だったから…///」


「俺もちょっと行って来て良いですか?」


「えっ、…ああ。」


少し離れたところで待っていると、御守りを買った野分が戻って来た。


「お待たせしました。」



「何の御守り買ったんだ?」


「ああ、これですか?安産の御守りです。」



「あ、安産っ!?……おっ…お前まさかっ!?」


弘樹は思いもよらず素っ頓狂な声をあげた。


「今度、産休に入る看護師さんがいるんですよ。」


「そっ…そうか…。無事に産まれるといいな。」


「はい、そうですね。あ、もちろんヒロさんの分を一番に買ったんですよ。」


「…安産はいらないぞ。そもそもオレは、御利益とか信じない性分だ…」


「……って言うと思ったので、干支の根付買ったんです。」



可愛らしいヘビには小さな鈴がついており、揺れるとチリンと音をたてた。


野分からの贈り物ならなんでも嬉しいのだが、あからさまにそういう顔が出来ない弘樹だった。


「あ…気に入りませんか?…これと…生々しいヘビのやつと…迷ったんですよね。やっぱりヘビらしい方が良かったですかね…。」


しょんぼりしながらブツブツ独り言を言う野分に


「生々しいヘビって、どんなだよ…。でも…お前からもらったものなら…なんでも嬉しいに決まってる…。」


最後の方は消え入りそうな声でそう言うと、


「え?ヒロさん、今なんて言ったんですか?」


たぶん聞こえたのであろう野分は目を輝かせ、弘樹の後を追う。


「うるせぇ///二度も言えるかっ!」


「ヒロさん、待って下さーい。」






………こうして、二人の新しい年が始まったのだった。



(おわり)




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ