エゴイストV
□+初詣+
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「…………。予想はしてましたけど…すごい人ですね。」
初詣で混雑している境内で、頭一つ抜きん出ている野分は辺りを見回し呟いた。
「…当たり前だ。正月の三が日だぞ。混んでるに決まってんだろ…。」
運良く休みが取れた野分に「初詣に行きたい。」とねだられた弘樹は、渋々近くの神社まで来たものの…人波に揉まれウンザリしていた。
「ヒロさん、手をつなぎませんか?」
「ば…///…ばか、なに言ってんだ、誰かに見られでもしたら…」
混雑の中で体を押され、よろめきながら弘樹が真っ赤になると
「だって、すごい人ですよ?はぐれちゃったら、探すの大変だし…」
野分は人混みから弘樹を庇うように肩を抱きよせた。
「だからっ///隣歩いてりゃ大丈夫だろ…っ…」
腕を突っ張って野分から逃げ出した弘樹は、
「………えっ?……あ…あれ…!?」
急に人の流れに押し流される。
「ヒロさ…っ」
野分が延ばしてくれた手をつかみ損ねた弘樹は、
「とっ、鳥居のとこで待ってる…っ」
とりあえず、後で会えるように野分にそう言ったが、あっという間に見失ってしまった。
眉間にシワを刻み、一人でガランゴロンと鐘を鳴らして形式的に柏手を打つ弘樹は、願い事もへったくれもあったものではない。
さっさと野分を見つけて家に帰りたいと、キョロキョロと探すが一向に見つからず…
「まいったな…。」
小さく溜め息をついた。
「この辺で待ってりゃ、そのうち来んだろ…。」
無闇に動きまわるのをやめ、鳥居の傍に寄りかかり通りすぎる人を眺める。
「………ん…?」
ふと、目をとめた先には、巫女さん姿のバイトの子達が忙しそうにしていた。
「……御守りか…。」
そういえば、野分に御守りをあげたのは受験の時以来だ。
実力主義の弘樹としては、神頼みだの御利益だのと、それほど信心深いわけではないが、
野分のこととなると話は別で、合格祈願の御守りをあげていたのだ。
必要ないくらいの学力は備わっていたが、思いの外野分は喜んでいた。
「………くすっ。今、あいつに必要なのは、これか…。」
神社の儲けに乗っかるわけじゃないが、激務に身を置く野分には一つあっても良いだろう…と、御守りを買って、鳥居の所へ戻る。
「ヒロさーん!」
声がする方を見ると、恥ずかしいくらいに野分が手を振り走ってくる。
「………良かった…。はぐれちゃって…どうしようか…と。」
息を切らせながら、ホッとした表情を浮かべる野分に、
「鳥居のとこにいるって言ったろうが…。」
溜め息をつきながら御守りの入った袋を手渡した。
「これ…御守りですか?」
無病息災の御守りに野分は目を細める。
「まっ待ってる間…暇だったから…///」
「俺もちょっと行って来て良いですか?」
「えっ、…ああ。」
少し離れたところで待っていると、御守りを買った野分が戻って来た。
「お待たせしました。」
「何の御守り買ったんだ?」
「ああ、これですか?安産の御守りです。」
「あ、安産っ!?……おっ…お前まさかっ!?」
弘樹は思いもよらず素っ頓狂な声をあげた。
「今度、産休に入る看護師さんがいるんですよ。」
「そっ…そうか…。無事に産まれるといいな。」
「はい、そうですね。あ、もちろんヒロさんの分を一番に買ったんですよ。」
「…安産はいらないぞ。そもそもオレは、御利益とか信じない性分だ…」
「……って言うと思ったので、干支の根付買ったんです。」
可愛らしいヘビには小さな鈴がついており、揺れるとチリンと音をたてた。
野分からの贈り物ならなんでも嬉しいのだが、あからさまにそういう顔が出来ない弘樹だった。
「あ…気に入りませんか?…これと…生々しいヘビのやつと…迷ったんですよね。やっぱりヘビらしい方が良かったですかね…。」
しょんぼりしながらブツブツ独り言を言う野分に
「生々しいヘビって、どんなだよ…。でも…お前からもらったものなら…なんでも嬉しいに決まってる…。」
最後の方は消え入りそうな声でそう言うと、
「え?ヒロさん、今なんて言ったんですか?」
たぶん聞こえたのであろう野分は目を輝かせ、弘樹の後を追う。
「うるせぇ///二度も言えるかっ!」
「ヒロさん、待って下さーい。」
………こうして、二人の新しい年が始まったのだった。
(おわり)
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