エゴイストU
□装衣。
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「………やだぞ。」
弘樹は、先手をとり断った。
「…先生。俺達頑張ってたの見てましたよね?」
「…ああ。みんな良くやってたよ。」
「サイズが合うなら、俺がとっくに着てるんです…。でも、俺じゃ無理なんですよ…。」
弘樹の前でトレーナーをめくり、たぽっとした白い腹を披露する学生にたじろいだが、
「だっ…だからってなぁ。オレだって女物の服は無理だって!」
「………入ればいいんですね。」
「そういう問題じゃないだろ…って、お…おいっ!?待てっ!どこいくんだ!」
学生にガッツリ手首を掴まれ、メイド服に着替えた女子に紛れ、明らかに女子ではない数名の「なんちゃって女子」のいる教室へ引きずり込まれた。
「上條先生、着てくれるってっ。」
「なに言ってるっ!オレはそんなこと一言も…。…んな服着れるわけねぇだろっ!」
フリルのたっぷりついたメイド服に青くなる弘樹だった。
「先生っ!覚悟を決めて下さい。時間ないんですからっ。」
「だから、無理だっ…っ。」
必死に断ろうとする弘樹の胸ポケットから、携帯の着信音が言葉を遮った。
「もしもしっ!」
『ヒロさん?俺です。』
……の…野分っ!
「なんだっ!今、忙しいんだっ。あとにしろ、あとにっ!」
『どうしたんですか?』
「先生、服脱いで下さいっ!」
電話中にも拘わらず学生達が後ろで急かす。
「うるさいっ!今、電話中だっ!」
弘樹は慌てて携帯を手で塞ぎ学生達に怒鳴る。
『…ヒロさん?』
「なにっ?」
『今、服がどうとか…。何かあったんですか?』
「なんにもねぇよっ!」
『まもなく大学に着くんですけど…。どこにいるんですか?』
…やばっ…忘れてたっ!
「いいっ!今日は来んなっ!」
『えっ?ちょっ…ヒロさん!?』
ブツンッ!
にじり寄る学生達に危機感をおぼえた弘樹は、野分の返事も訊かずいきなり携帯を閉じたのだった。
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