変わり種
□◆祝賀◆
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野分の仕事が終わるのを待つ間に、美咲は携帯を開き秋彦に電話した。
『もしもし?』
「あっ。ウサギさん?オレだけど…。今から花屋さんを連れて行こうと思うんだけど…いいかな?」
『…花屋?…なんで?』
「花束をバラすんだよ。花の種類とか、名前とかオレよくわかんないし…。教えてくれるっていうからさ。」
『やだ。』
…やっぱりそう言うと思いましたよ。
「…やだじゃねぇ。もったいないから絶対飾るっ!…それにウサギさんには、迷惑かけないし。1時間くらい仕事場に籠もっててよ。すぐ終わるからさ。」
『…1時間だけだぞ。』
不機嫌な返事が返ってきたが、とりあえず野分をマンションに入れる許可をとりつけた。
「お待たせしました。」
ちょうど電話を切った美咲が携帯を閉じると、野分が小走りに美咲のもとへとやって来た。
「いえ。オレの方こそ突然すみません。…オレ…兄の友達の家に間借りさせて貰ってるんですけど…、その人が有り得ない程花束を貰っちゃって…。」
「何をされてる方なんですか?」
………小説家………とは…とても言えない。
「な…なんでしょうね。オレも良く知らないんですけど…。」
美咲は、とても曖昧な返事をしてしまう。
「あっ。でも怪しい仕事じゃないですよ…。」
「…?。そうですか。」
野分も、あまり深く聞く事もなく緩やかな坂道を登って行くと、見るからに高級そうなマンションにたどり着く。
思わず建物を見回す野分の横で、美咲はエレベーターのボタンを押した。
「…スゴいとこですね。」
「…はは。オレもそう思います。」
最上階にある玄関の前で、表札に目をやった野分は瞠目した。
゛USAMI"
「宇佐見?」
野分は足を止めると、美咲を見やった。
「えっ?…と、…ああ…そうです。」
美咲はバレないことを祈るばかりだ…。
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