エゴイストU
□+夏の思い出+
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「そんな事あるわけないっ。昨日今日の付き合いじゃねーんだ。数えきれないくらいお前とキスしてんだぞ。今更だろうがっ!」
心臓の高鳴りが、唇まで届くはずねぇだろ。
「…いや…でも…。」
………このやろ。
「うるせー!」
野分の髪の毛を引っ張るようにして、もう一度口づけると…
「…くすっ。ご馳走様でした。」
ぱふっ…と、野分に引き寄せられ…
………騙されたことに気づいた。
思い出すだけでも、恥ずかしい…。
年下の野分の口車に乗せられ…3回も口づけたあげくに…背中を撫でる野分の心地よい腕を振りほどく事もなく…好き放題にさせて…
次の日、腰を引きずるように大学に行って…教授に散々ひやかされて…上手くかわす事も出来ずに悔しくて歯噛みした…。
…しょっぱい…夏の思い出だ。
「そういえば…あの金魚どうした?」
「あー。元気ですよ…見ますか?携帯にあるんで…。」
「へぇ。生きてんだ。」
野分は携帯を取り出すと、オレに画面を見せてくれた。
動画で撮ったそれには、病棟の子供達が映っていて…
『ほーら、ノワキ。いっぱい食べてねー。こらっヒロキっ!ダメでしょー。それは、ノワキのなんだからーっ!』
…どうも…赤い金魚はノワキという名前で…
…腹に白い模様のある方がヒロキというらしい…。
「…野分。説明してもらおうか?」
「大きくなったでしょう?子供達がお世話してくれてるんですよ〜。」
「そういう事じゃねーよっ!なんで、金魚にオレの名前が…っ!」
『ねぇ。ヒロキはノワキが好きなのかなぁ。眠ってるみたいにジッとしてるノワキに、キスするように…お顔を近づけてるんだもん。』
「………っ///。…お…おお…オレは、そんな事してない。眠ってる野分にキスなんかしたことないぞっ!」
…しまった
………バレたか?
野分は、携帯をこちらに向けたまま肩を震わせ…
「…金魚の話ですよ。」
「わかってるっ…///!」
…絶対…気づかれた。
こういう時は、話題を変える事のが一番だ。
「のっ野分っ。」
「はい?」
「お、お前、金魚すくい上手かったよな?」
「いえ。別に上手いわけじゃなくて…。金魚って、後ろに下がれないなと思って…前からすくっただけですよ。そしたら、たくさん捕れただけです…。」
……やなヤツだ。
魚の習性を利用して、元々手先が器用なのも手伝って…あんなにすくったってのか。
『あー。ヒロキのお腹にハートマークがついてる〜。』
………なんですと?
子供の声に、画面に視線を戻すと…確かに金魚の腹にある白い模様は、ハートの形に見えない事も…ない。
「可愛いでしょう?最後の一匹をどれにしようか選んでいたら、これを見つけたんです。絶対捕まえようと思いました。」
野分は再生し終わった携帯を閉じると、小さく微笑んだ。
…なんだかな。
野分の話聞いてると…恥ずかしくて…嬉しくて…複雑だ。
「…ヒロさん。」
「うん?」
「来年は…お祭り行きましょうね。」
「金魚すくい…やらないなら、行ってやってもいい…。」
「はい。じゃあ、今度は射的にしましょう。俺、得意なんです。」
「ばかっ…///。」
………来年オレに何をさせるつもりなんだ?
(おわり)
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