エゴイストU

□素材+オマケ+
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…野分め。

オレの名前こそ出してないものの…堂々と公言しやがって。


あの夜、キスマークつけろって、しつこく言って来たのも計算尽くで…



こういうところは抜け目ないっつうか…、すっかり野分の企みにハマったつうか…。



…でも。


ちょっとだけ…嬉しいのも事実だ…。







そして…


夜もとっぷりくれた頃、控えめに玄関のドアが開く音がする。


……野分だ。


「ヒロさん。ただい…」


「…おかえり。」

弘樹は、ソファーに腰かけたまま微笑みを湛(たた)えた。


「………ま…です。」


「野分。お前に聞きたい事がある…。」


「なんですか?」


弘樹の異様な笑みを見やりながら、肩にかけていたバックを下ろした。


「お前…写真以外になんかしなかったか?」


「あれ?もしかして見ちゃいました?」


「ぐ…偶然な。」

…嘘だけど。



「………そうですか。」


「野分でも、あんな顔すんだな…。ヘアスタイルも斬新だったし…。」


……一応…褒めたぞ。


「あれは…大変でした。」


野分は眉をひそめた。

「イヤな事を思い出してしまいました。」


ふつう…楽しいんじゃないのか?

弘樹は、野分の意外な一言に疑問符を浮かべた。


「あの表情を撮るために、君は人の皮を被った極悪非道な悪魔だっ…のイメージで…なんていうんです。」


…………無理だ。

…この優しい野分には、酷な要求だ。


「…で、無理です。って言ったら…今度は、じゃあ…なかなかさせてくれない恋人をやや強引に抱いちゃう…なんて、どう?って…。」


……カメラマンはSか?Sなのか?


「それで?」


野分は、ヘラっと笑い

「上手くいきました。」


うまくいったのかよっ!

「…で?ふつうに笑ってるやつは?」


「はい。あれは、恋人に向ける笑みを…と。なので、ヒロさんの事を想ったら…幸せな気持ちになりました。…一発OKだって褒められました。」


「…………///。」


………いつも見いてるあの笑顔…。

あれが…オレだけに向けられてると思うと、すごく嬉しい。



「ヒロさん?。」


「……オレのつけたやつ……写ってる。」


「すみません。最後の撮影だったので…一緒に写りたかったんです。」


……やっぱり計算尽くかよっ!


「…ったく。写真だけじゃねぇだろ?恥ずかしいことベラベラしゃべりやがって。」


「そうですね。反省してます。撮影終わって気が緩んでしまいました…」

悪びれた様子もなく野分は笑っていたが…、

オレ達の事を知ってる教授や秋彦に見られたらと思うと、弘樹の眉間のシワが自然と深くなっていく。







数日後…


「なぁ。上條ー。…これってさぁ…研修医君に似てねーか?」

雑誌を指差した宮城に、弘樹は振り返りもせず…


「……人違いです。」


と、苦虫を噛み潰し…帰ったら絶対ぶん殴る…と、ひそかに拳(こぶし)を固めたのだった……。



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