エゴイストU

□禁断。
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「くすっ。…あーあ。……やっぱ………ダメだわ…。」


………笑うしかない。


……激しく望んでいたことなのに…。


彼のひと言は…俺の気持ちを一瞬で萎えさせた。

俺は上條さんから体を離し…スヤスヤと眠るその顔を眺めて…作戦失敗とばかりに…最後の口づけをした。







そして…俺の想定した所要時間通りに野分は帰宅した。


「ただいまです。先輩、お酒これでいいですか?……あれ?ヒロさん寝ちゃったんですか?」


「おー、サンキュー。待ってたぞ。…おたくの恋人は、酒弱いんだな…あれから、すぐ寝ちまったぞ。」

「………そうですか。」

…あ…バレた?


たっぷり間をおいた野分の返事が…俺の背筋を寒くさせる。

…一応バレないように、彼の体を含め…完璧な原状回復はしておいたはずだが…。

知ってか知らずか…野分は眠る上條さんを抱き上げ寝室へ連れて行った。








…次の日…。

「…先輩…ちょっといいですか?」


きたーっ!


「……な…なに…?」

「お願いきいてくれませんか?」


………野分の微笑みは、絶対零度のオーラを醸し出している。


「…なんだよ。…注射も点滴も…練習台は、やんないぞ……?」


「…いえ。今日はopeみたいなものです。」


……ope?


「…誰の?」

「先輩の。」

「……どこを?」

「俺のヒロさんに、悪戯(おいた)をしようとした部分です。」

「…なにするつもり?」

「切除と縫合です。」


「なんのために?」


「二度と不埒な行為が出来ないようにするためですよ。」


……………思いっきりバレてるんですけど。


「……上條さんが言ったのか…?」

「いえ。ヒロさんは気づいてませんよ。……傷つけたくないですから。俺も何も言ってません。」

「…あ……そう…。」


「さぁ…先輩、出して下さい。」


野分は、ロッカーから裁縫箱を取り出した。


「……なぁ。裁縫箱使って何するつもりだ…?」

「ちょん切るには、この裁ちバサミで十分ですし…幸い針と糸もありますから安心して下さい。」

「…野戦病院じゃねぇんだからさ……やるにもope用があるだろ…?」

………なんて軽口たたいてみるが…


……ヤバい。マジでヤバい。………いやいや…この位のリスクは承知の上だったが…。

………いつもの危険度を遥かに越してる。

………正に…生命の危機だ…。


「…ごっ…ごめんっ!…酔った上での出来心ってヤツだ…。もう絶対しないし…なっ。」


「信用出来ません。」

………ニコニコしながら言うな。怖ぇーよっ!

ハサミをチャキチャキさせんなーっ!


「…ま…待て……。はやまるな…。ホントに誓う!絶対に手は出しませんっ。」


「……本当ですね?」


「ホント!ホントです。天地神明に誓って嘘は申しません。」

「…わかりました。………でも…次はありませんよ?」


終始穏やかな口調で話す野分が空恐ろしく…、禁断の果実には決して触れるべきではないと……。

そして最後までしなくて良かったと…今更ながら胸を撫で下ろした。


裁縫箱を片付ける野分に参考までにと…

「なんでバレたんだ?」

「体のぬくもりと、消毒液の匂いです。」

「…そんだけで?」

「はい。………それと付け加えるなら…眠剤は卑怯です。」


………草間野分…恐るべし。


「最後までしてたら…俺ってどうなってたの?」

と、聞いてみると…


「やだなぁ…そんな事したら、先輩はもうこの世にいませんよ〜。」


野分は笑いながら部屋を出て行った。



……野分


………マジ怖いって。





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