エゴイストU
□素材。
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……最近
野分の帰りが遅い。
あ、いや…いつも遅いのだが…。
……いつもと違うのは、
あいつ…オレに何か隠してるってこと。
『はい。武蔵野医科大学病院です。』
「もしもし。上條と申しますが、研修医の草間先生を…」
『草間先生ですか?…ええと…今日は定時でお帰りになりましたが…。』
「……そうですか。わかりました。」
携帯を閉じたオレは、時計の針を見た。
…もう…とっくに帰って来てもいいはずなのに。
そんな事を考えていると、玄関の開く音がする。
「ヒロさん、ただいまです。」
……いつもと変わらない笑顔…。
「……お…おかえり。」
「ヒロさん?」
小首を傾げ、何かあったのかという顔でオレを見た。
「…なぁ野分。今日さ…。…っ!…な…なんでもない。」
……野分の髪が濡れている?…ような気がする。
ふっ…と香るシャンプーの匂い。
「ヒロさん…どうしたんです。何かありました?」
……何かあったか…だと…?
…んなのオレが聞きてぇよ。
「…いや…別に。早く着替えて来いよ。飯出来てっから。」
オレは…言葉を飲み込んで、いつものように振る舞った。
「はい。ありがとうございます。あ、それから…俺のこと待ってなくていいですから…ご飯さきに食べてて下さいね。時々遅くなるかもしれないので。」
「なぁ…。…それって改めて言う必要あんのか?いつもと変わんねえだろ。」
…なんで?…と、聞けない自分にイラッとする。
普段会える確率が低いから、一緒にいる時は…ちゃんと話をしようって、同居を始める時に決めたのに…。
今までバイトしたって、シャワー浴びてくるようなことなんか無かった。
オレと1分でも長く一緒にいたいからって、急いで帰って来てから風呂入ってたのに…。
……一緒にいたい…。
野分がそう言ってくれるのが嬉しくて、あいつが帰ってくるのを、いつもドキドキしながら待っていた。
………なのに。
…なんだっ!先に飯食っとけって!。
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