エゴイストU
□+桜の下で+
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「ヒロさん。桜見に行きませんか。」
「桜?…今から?」
「はい。ライトアップされてて、夜桜すごく綺麗でしたよ。」
「…………ふーん。」
「…あ。缶ビール持って行きましょう。」
野分は、冷蔵庫からビールを2本掴んで来た。
「さあ、ヒロさん行きますよ。」
「…なんだよ。オレは行くなんて一言も…。」
「……ダメですか?」
………またコイツは…
「…嫌ならいいです。」
…こんなしょぼくれた顔しやがって…。
「…い…行かないとは…言ってない。」
「え?…じゃあ。」
弘樹は、上着をポイっと野分に投げ渡し…、
「…行くんだろ…///。」
「はいっ。」
野分の嬉しそうな笑顔に…弘樹は頬が緩みかけたのを見られたくなくて…顔を背けた。
近くの公園は、桜を楽しむ人で賑わっていた。
…まあ…中には花見を理由に飲んでるだけのヤツもいるが…。
「…結構いるんだな。」
「そうですね。お祭りみたいなものですから。」
.
「…だな。」
「…ヒロさん。あそこに行きませんか?」
野分が指差した所は、ライトが故障しているのか、木の下方が薄暗い所で人も疎らだ。
あまり騒々しい所が好きではない弘樹には、ちょうど良い場所だった。
「はい。ヒロさん。」
野分は、ベンチに腰掛け持って来たビールを渡す。
「おー、サンキュー。」
…時折、遠くのライトの光に照らされた薄紅色の花びらが舞い、幻想的な空間を作りあげていた。
「………綺麗だな。」
「そうですね。」
「…野分。」
「はい?」
「………ありがとな。」
「え?」
「…なんかさ…久しぶりに桜を見たような気がする…。たまには、いいな…こういうの。」
「…俺も、こうして一緒に桜を眺める事が、すごく幸せです…。」
…なんでコイツは、こういう事をサラッと言うかなっ………///。
弘樹は掴んでいた缶ビールを勢いよく飲み干した。
「おいっ野分っ!あそこで、酒買ってこい!」
.
「あ…はい。」
野分は腰を上げると、夜店に歩いて行った。
………アイツは、こんなふつうの花見でも幸せなんだな。
弘樹は、その後ろ姿を見つめた…。
「ヒロさん。お待たせしました。…ヒロさん?」
「え?……ああ。」
「どうしたんです?寒いですか?」
「いや。…寒くねぇよ」
弘樹を覗き込んだ野分は、
「…帰りましょうか?」
「うん?…いや…いい。…もう少し見たいし。」
「そうですか?」
野分は隣に座ると、さり気なく弘樹の手の上に自分の手を重ねた。
「…おいっ!人に見られたら……」
「俺は…いいですよ。」
黒い大きな瞳は、弘樹を映す。
「ヒロさん。…キスしていいですか?」
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