総北

□手嶋
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寝ぼけ眼の告白



「篠宮。

おーい、篠宮?」

大好きな人の声が聞こえて、私は嬉しくなった。

声になったかどうかはわからないが、
手嶋くん、と呟く。

ふわふわした心地のまま

「手嶋くん、スキ」

と、いい気分のまま口に出して、
そう、はっきりと口に出して言った自分の声で、詩織はガバリと目を覚ました。

「あっ......」

身体を起こして目を開ければ驚いた顔の、想い人である手嶋純太がそこにいた。

最悪だ

折角少しずつ仲良くなってきたところだったのに、と詩織は泣きそうになる。

放課後、自分の机で寝こけていた詩織を起こしてくれたのであろう手嶋の声を、いい夢、なんて呑気に思っていた数秒前の自分をひっぱたきたい。

驚きから復帰したのか、手嶋くんが口を開いた。

「今の....」

「うん...」

「告白だと思っていい?」

詩織は覚悟を決めて頷き

「手嶋くんが、好きです」

そう口を開けば

「嬉しいよ、ありがとな」

と満面の笑みの手嶋くん

あれ?ごめん、じゃない?

「実は...俺も篠宮のことが、好きなんだよな」

「へ?」

自分に都合の良い幻聴かと思って手嶋を見上げる

「ははっ。

俺の都合の良い幻聴かと思ったけど、違くてよかった」

同じこと思ってたんだ、と詩織は嬉しくて微笑んだ。

「その、さ。

俺、自転車ばっかであんまり彼氏らしいこと出来ないかもしれないけどさ、
篠宮に俺の彼女になってほしい」

そう真剣に見つめられて

「うん、よろしくお願いします」

ドキドキしながら返せば

ハァーっとしゃがみ込む手嶋くん

「手嶋、くん?」

「なんか予想外のことが起こったから、緊張した」

「手嶋くんでも緊張するの?」

話しかけてくれる手嶋くんは、いつも普通で緊張しているようなところは見たことがない、そう伝えれば

「そりゃ、篠宮さんに嫌われないように必死な姿とかカッコ悪くて見せたくないって」

詩織は必死に自転車を漕いでいる手嶋の様子を思い出して

「でも、なりふり構わないで自転車に乗ってる時の手嶋くんもかっこいいと思うよ」

手嶋はうな垂れた。

見られてたのか、と苦笑する手嶋くん。

「でもさ、じゃあ尚更分かんないんだけど。

なんで俺のこと好きになってくれたんだ?」

「え?どうしてって...」

「だって、いつも青八木のこと見てただろ?

てっきり青八木を好きなんだと思ってた」

「ん?......んー.........あっ!」

手嶋の言葉に詩織は思い当たった。

「それは、その、私、いつも緊張してうまく話せないから」

「そうか?」

「そうなの。

それで、青八木くんって口数は少ないでしょう?

でも手嶋くんとすごく仲がいいし、分かり合ってるでしょう?

それが羨ましくて、青八木くん見てたら何かわかるかなって思って」

それで時たま青八木を観察していたのだと詩織は告げた。

予想外の返答に手嶋はポカンとした。

「普通、好きな相手を観察して良く知るもんじゃないの?」

「ん?手嶋くんのことも良く見てたよ?一年生の時に」

「へ?そんなに前から俺のこと?」

「手嶋くんは覚えてないかもだけど、

入学した当初でまだ仲のいい子もいない時にね、

筆記用具を忘れて困っていたところに手嶋くんが自然に貸してくれて、

優しいんだなって思ったのが始まりだったんだよ?」

最初はそれだけだったんだけど、わりといろんな人のこと良く見てるみたいで、手を貸す姿が印象的だった、と詩織は続けた。

クラスでは余裕のある様子なのに、たまたま目撃した自転車部の練習中の手嶋くんが必死に練習してる姿を見て印象的だったのだと。

彼は陰で努力をする、努力家なんだと。

「それから手嶋くんのこといっぱい知りたくて、観察してたんだよ」

と言えば、マジかよって再び項垂れる手嶋。

「篠宮って俺の計算から外れるの得意だよな」

「ん?」

用意周到で計画的な手嶋だが、詩織とのことはほとんど計画が失敗するのだという。

「篠宮のこと可愛いって言ってる男子も結構いてさ。

なのに予想以上に距離が縮まないから、正直焦ってたんだよな...誰かに掻っ攫われるんじゃないかって」

手嶋の想いに詩織は嬉しくなって、

「私が好きなのは手嶋くんだけだよ」

って笑った。

目を見開いて驚いた表情をした手嶋は口元を隠して

「純太」

そう呟いた。

こてんと首をかしげる詩織

「名前で呼んでほしい。詩織」

顔を真っ赤にする詩織はそれでも頑張って

「じゅ、純太、くん」

そう上目遣いに恥ずかしそうな視線を手嶋に向けながら名前を呼んだ。

その破壊力に手嶋はしゃがみこんで

「まじかよ」

と呟くのだった。



翌日から名前呼びになっている二人はあっという間に付き合っていることがクラス中に知れ渡ることになった。

詩織は問われる度に恥ずかしくて頬を赤くして手嶋に助けを求める視線を送った。

見兼ねた手嶋はクラスの男子に向かって

「詩織に手、出すなよ?」

ってクラスで宣言してくれた。

詩織はその手嶋にドキドキと胸を高鳴らせて、私の心臓大丈夫かな?

とこれから続く手嶋との未来に少し心配になったのだった。



end
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