巻島

□シャッターを押して
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表彰式、来れて良かった

金城と鳴子が壇上に上がったのを見て雪乃は思った。

途中でリタイアしたのを心配はしていたのだが様子を見に言っている余裕などなかった雪乃はホッと息をついて、それから壇上に登るメンバーの笑顔の写真を順に撮っていった。

「巻島、せんぱい」

皆んなと同じで笑顔だと思っていた巻島を見た途端雪乃はファインダーから顔を上げて巻島を見上げた。

「良かったですね、巻島せんぱい」

雪乃は小さく呟きながら、涙を流す巻島をファインダーに写して、シャッターを押した。

表彰式と後片付けが終わり、荷物の積み込みがあともう少しで終わろうかという時になって雪乃は巻島の言葉を思い出していた。

巻島せんぱいの言いたいことってなんなんだろう..

まだ聞けていないその内容が気になって、雪乃は巻島の姿を探した。

ベンチに座っている巻島を見つけた雪乃は巻島の方へと足を向けた。

「....巻島、せんぱい」

「篠宮......」

「あの、優勝おめでとうございます。
それからお疲れ様でした」

「あぁ、ありがとうな」

「巻島せんぱい、私..」

雪乃は気がついた巻島への気持ちを伝えようかと言いかけて口ごもった。

「篠宮、昨日話したいことがあるって言ったの、覚えてるか?」

「え、はい、もちろんです」

「そのよォ、なんだ......」

言いかけた巻島は言葉が続かず

「アー.....」

と視線をそらした。

クソっ、何ビビってんだよ祐介
巻島は自身に喝を入れてから

「雪乃、好きだ」

そう真っ直ぐに雪乃を見つめて言うのだった。

「.........⁉」

まさかそんなと、嬉しさよりも混乱が雪乃を襲った。

固まる雪乃に巻島は不安そうに

「いや、オレなんかに告られても迷惑、だよな....」

「あっ....
ち、違います!あの、信じられなくて。
だって、私も好きって言おうと...っ」

雪乃の言葉は最後まで言えずに、気がつけば巻島に抱きしめられていた。

「スゲー嬉しいっショ」

「巻島せんぱい...私も、私も好きです」

雪乃は巻島の背中に腕を回した
そうしてしばらく抱きしめ合っていた二人だったが、巻島が小さく言った

「オレ、9月からイギリスに行くんだ」

「え?」

「だからよ、付き合おうとは言えない、ショ...」

巻島から身体を離した雪乃は、巻島の顔を見上げた。

「それは、遠距離になるからってことですか?」

「まァ、そうっショ」

「なら....私がイギリスに行くなら問題ないですね」

雪乃がニッコリと笑えば巻島は慌てた顔をして

「オ、オレに合わせるのは、よくないっショ!」

嬉しいけどよ、と巻島が言うので雪乃はクスリと笑った。

「巻島せんぱい、実は私、クウォーターなんですよね」

「は?」

「祖母がイギリス人なんです」

それでと雪乃は続けた。

「ちょうど写真の勉強をしたくて、留学して祖母の家で暮らそうと思ってたんです」

人物写真も撮れるようになりましたしね、と笑う雪乃。

「なっ...」

「なんか、運命みたいですね」

ニコリと雪乃が巻島に笑いかければ、ショォォ...と言って巻島は顔を伏せてしまった。

「巻島せんぱい?」

「恥ずいから、見るなっショ」

「何がですか?」

「オレが行くから着いてくるって言ってんのかと思ったからヨ」

痛いやつっショと項垂れる巻島

「そんなことないですよ、巻島せんぱいが私のこと考えてくれて、嬉しいです」

自分の道をちゃんと進めと暗に言ってくれた巻島は、やっぱり小野田くんの言うとおり

「カッコいいです、巻島せんぱい」

「ショ、」

照れて頬をかく巻島に雪乃は問いかけた

「イギリスに行くの、言ってないんですね?」

「そう、っショ。
余計なこと、考えてる余裕、アイツらになかったショ」

「...せんぱいの時々みせてた表情の正体は、これだったんですね。
これからは、一人で背負わないで欲しいです」

「雪乃....」

「私じゃ、なんの力にもなれないかもしれないですけど、全部、話してほしいです。
だ、だって...彼女、だから」

雪乃が少し不安そうに巻島を見上げれば、参ったなという顔で巻島は苦笑した

「かなわない、ショ」

そう言ってそっと雪乃に口づけを落とした。

「雪乃、オレと付き合えヨ」

「はいっ、巻島せんぱい!」

巻島の言葉に雪乃は満面の笑みを浮かべたのだった。





end
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