巻島

□シャッターを押して
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翌朝目覚めた雪乃は、ぼーっとした頭で昨晩のことを思い出した

「名前を呼ばれただけなのに...」

ドキドキと胸の高鳴りが止まらない。

視線が巻島へ向かうのも
抱え込まないで教えてほしいと思うのも巻島だけ。

写真を撮りたいと思った人たちの中で巻島だけは誰よりもキラキラして見えたし、
他の人を目で追ったりはしない

「やっぱり、スキなのかも....」

以前にも思った結論に雪乃はなんだか納得して、高鳴った胸の鼓動に少しだけ微笑むのだった。

「いい写真を撮ろう」

巻島を一番素敵に撮るのだと
雪乃は意気込んで会場に向かうのだった。

皆んなの走りを撮れるだけ撮って、雪乃はゴールで総北のジャージが届くのを待っていた。

接戦。

放送では小野田くんと箱学の真波くんが先頭を走っていると言っていた。
一番に来て欲しい。

辛い練習をしていたのを見てきた雪乃は心から願った。

ゴール目前で歓声が上がる。

雪乃はカメラを構えた。

「.............っ」

シャッターを切る合間すら惜しかった
素人目で見たって、二人とも限界だ

「ぁ......」

二人のゴールを目指す迫力に雪乃は無意識に小さく声を漏らした

初日のラストクライムの時のような熱い気持ちになりながら雪乃は二人のゴールの瞬間をカメラで切り取った。

それからも雪乃はシャッターを切る手を止めずにファインダーを覗いた。


手を空高くあげる小野田

俯いたままの真波

小野田の元へ飛び込んでいく手嶋や青八木たち

微笑みあって倒れる寸前の小野田と真波

倒れ込んだ小野田

小野田を抱きしめる手嶋


そこまでを撮って雪乃はゴールに視線を移した。


完成とともにゴールする瞬間の東堂

その少し後にゴールした福富


二人の写真を収めた雪乃はその後に見えた緑の髪を目に捉えてカメラを構えた。

独特のダンシングでゴールする巻島の姿を雪乃は必死に撮った。


ゴールしてすぐにヘルメットを放り投げた巻島も

らしくなくテンションが高めの彼が小野田に抱きついた瞬間も、


一つも撮り逃したくないと雪乃はシャッターを切り続けた。

皆んなの輪には入らずに、表彰式も最高の写真が撮りたくて早々に場所の確保に向かった雪乃は、
ひと段落した巻島が雪乃を探していたなんて知りもしなかった。





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