巻島

□シャッターを押して
14ページ/16ページ

問題も色々起こったが、インハイ2日目も無事に終わりを迎えた。

明日はいよいよ最終日。

雪乃が走るわけでもないのに何故か緊張して、飲み物でも買おうとロビーへ向かった雪乃。

そこには先客がいた。

「巻島、せんぱい?」

「よぉ、篠宮。
寝れないのか?」

「はい、緊張しちゃって」

「...写真は、撮れたか?」

「はい。
面白いように撮れるんです!
私、本当に人を撮れなかったのかなってくらい」

「東堂も、撮ったのかヨ?」

「撮りましたね、総北と箱学中心に撮ってたので。
沿道で応援してる人、給水所の様子とかも...」

「オレは...」

「巻島せんぱいも、もちろん撮りましたよ!
やっぱり一番撮りたいと思うのは巻島せんぱいですもん」

「篠宮.....。
明日、オレたち総北が優勝したら
お前に言いたい事がある、ショ」

「...?巻島、せんぱい?」

普段と違う巻島の雰囲気に雪乃は首を傾げた。

「明日、な。篠宮」

「あ、はい....」

巻島が部屋に戻ろうと立ち上がって

「なァ、明日は.....」

そう言いかけてから何かを思いとどまるように

「いや、ワリィ。なんでもないっショ」

そう言ってひらっと手を上げて立ち去っていった。

「どうしたんだろう...
ああいう顔、好きじゃない」

巻島の何かを飲み込んだようなあの顔は好きではないなと雪乃は思った。

あの時たま見せる憂えた顔と同じだと思ったら、雪乃の足は勝手に動いていた。

廊下の先に緑の髪が見えて、雪乃は走る速度を速めた

「巻島せんぱいっ!」

「うぉっ⁉」

勢いよく巻島の背中に抱きついた雪乃は、そのまま巻島に話しかけた。

「巻島せんぱい、何言いかけたんですか」

「篠宮⁉」

「さっきみたいな時の巻島せんぱい、好きじゃないです」

「.......」

「一人で抱え込んじゃうみたいな、そういうの、なんか嫌なんです」

「今日は、本当にいいっショ。
明日、聞いてくれれば、それで十分だからよ」

そっと雪乃の腰に巻きついた手を解いて振り返って雪乃を見た巻島は息を飲んだ。

「.....期待、しちまうっショ」

「.....?」

「ほら、部屋に戻れよ。
明日もいっぱい写真撮ってくれんだろ?」

「それは、もちろん」

「頼んだぜ、雪乃」

そう言って巻島は今度こそと部屋へと戻っていった。

雪乃はしばらくの間、その場に呆然と立ち尽くしていた。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ