巻島

□シャッターを押して
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1日目のゴール地点で、皆んなに合流した雪乃は、巻島を探した。

「あ、さっきの...」

「あ、雪乃先輩じゃないっスか、どうしたんですか?」

と雪乃に気づいた鳴子が声をかけてきた。

「うん、巻島せんぱいに話が..」

「巻島さーん、雪乃さんが!」

「篠宮?」

どうしたのかと言いたげに巻島が近寄ってきた。

「巻島先輩、すごかったです!」

「あ...あぁ...」

「巻ちゃん!なんだねその返事は」

「わっ、東堂っ⁉」

さっき巻島せんぱいと競っていた人だと雪乃は視線を東堂に向けた。

「お前、話は終わったのかヨ?」

そう巻島が小野田の方に視線を向ければ、何やらクライマーの1年どうしで話しているようだった。

「そんなことより巻ちゃん!
女の子にその返事はならんよ」

「あの、東堂さん?
東堂さんもすごかったです!」

「おぉ!オレを知ってるのかね?
流石は箱学一の美形のオレ!
キミ、試合を観たのは初めてかね?」

「え、はい..」

「そうかそうか!
初めて観た試合がオレと巻ちゃんのラストクライムだとは、ついているな!
この山神東堂の走りは美しかっただろう?」

「え、あ...そうですね?
巻島せんぱい以外であんなにキラキラしてる人初めて見ました」

「そうか!記念に写真でも撮るかね?」

東堂が雪乃のカメラを指差して言った。

鳴子がすかさず

「雪乃さんは、巻島せんぱい以外の人、撮れへんのですよ」

そう言ったが、当の雪乃は

「いいんですか?
きっといい写真が撮れます!」

と嬉々としていた。

「な、なんでですか雪乃さん!
前と言ってることちゃいますやん」

「え?」

「撮りたいと思えないと納得した写真にならんからって、ワイの写真断ったじゃないですか!」

「うん、だから、東堂さんを撮りたいと思ってるんだ、けど...」

「えっ!?
巻島さん以外に撮りたい思ったんですか?」

「うん、そうだね」

その雪乃の回答に巻島は少しモヤっとした。

その間にも東堂がポーズを決めたり、話している時に撮ったりと雪乃はどんどんシャッターを切っていた。

普段のオレだって撮ったことないっショ、なのになんで東堂を...

そう思ったら、巻島は身体が勝手に動いていた。

カメラの前に立って東堂を見えないようにした巻島は

「オ、オレだけ撮ってりゃいいっショ」

そう言っていた。

「え?巻島、せんぱい?」

「なんだ巻ちゃん、羨ましいのか?
ならば一緒に撮ってもらおうではないか」

「ち、ちげぇよ!
そっちもそろそろ移動する時間だろ?」

「ん?そうだな。
真波!帰るぞ!」

そう呼びかけた後

「そういえば名前を聞いていなかったな」

「私ですか?」

「そうだ、オレは箱学3年東堂尽八だ」

「総北2年の篠宮雪乃です」

「雪乃ちゃんか、いい名前だな。
それじゃあ雪乃ちゃん、またな。巻ちゃんも!」

そう言って東堂たちは帰っていったのだった。

「あー、小野田くん、先戻ろか」

「あ、うん」

そうして小野田たちもテントに戻り、残されたのは雪乃と巻島。

「せんぱい?戻らなくていいんですか?」

「.....なァ、篠宮」

「はい?」

「オレだけ撮っててくれないか?」

「それは...できないです。
私、この大会中なら他の人も撮れる気がするんです。
もう、人を撮れないなんて克服したいの」

その雪乃の返答に、巻島は気づいてしまった。

雪乃の事が好きなのだと。

けど自分自信に向き合っている最中の雪乃に

オレだけを見ててほしい、なんて言えないっショ

と巻島は気持ちを押さえ込んだのだった。




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