Others内容

□フェルディナンド×ローゼマイン
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想いは色あせることなく


「ローゼマイン、今度は何をやらかしたのだ」

深いため息とともに、にこやかな顔のフェルディナンドがローゼマインを出迎えた。

ひぇっ、お、怒ってる

ローゼマインは恐々と口を開いた。

「私、今回は悪くありませんよ!
不可抗力です」

ローゼマインは記憶を少し前に遡らせた。



今日はプランタン商会を呼び出していた。

これはフェルディナンドも了承済みで、試作の香水を届けてもらう予定となっていた。

材料はフェルディナンドの魔木研究所から香りのいい花が咲くものを選んで提供したものだ。

「アウブ、こちらがご注文頂いていた“香水”でございます」

ベンノが丁寧に包まれた小瓶が入った箱をテーブルの上に丁寧に置いた。

ハルトムートが箱を受け取り、中身をローゼマインの目の前へと差し出す。

受け取ったローゼマインは、瓶の蓋をそっと開けて匂いを確認した。

「いい香りですね」

満足そうに微笑めば、ベンノはふっと肩の力を抜いた。

その顔には“当たり前だろう”という自信が浮かんでいた。

ローゼマインは試しにと、ひとつをふりかけた。

ふわりと上品な香りが広がる。

うふふん、いい感じです

と香りに和んでいると、それは突然に始まったのだ。

「ローゼマイン様素敵ですわ」

リーゼレータの熱い眼差しに、ハルトムートもいつもの5割り増しくらいで女神云々と褒め称えてくる。

「ど、どうしたのです?」

このような場で、このようなことを言い出す二人ではないのだ。

ほら、おかしい。

いつのまにかハルトムートがローゼマインの手を取り、愛を囁いているように聞こえるのだ。

あのわけのわからない神々の比喩表現のオンパレード。

「ハ、ハルトムート?

あなたにはクラリッサが..」

いるでしょう?と言いかけたローゼマインは絶句した。

クラリッサまでもが同性の私に愛を囁いているようなのですが...。

一旦落ち着こうと、ベンノとルッツの方を見遣れば彼らの様子もおかしい。

「ベンノ?ルッツ?」

「私の水の女神はローゼマイン様です」

そう恭しく言ったベンノが、ハルトムートとは反対の手を取り、ローゼマインの手の甲に唇を押し当てた。

「ひゃうっ⁉」

おかしい、おかしすぎる

この状況は何⁉

ローゼマインは困惑しながらもさっと手の自由を奪い返し、席を立つと脱兎のごとく部屋のドアを開け放ち廊下に躍り出た。








はしたないとか外聞がなんて気にしている場合ではない。

ローゼマインは大慌てでフェルディナンドの元を目指した。

あぁ、奇獣を出せたら...

まだ若干の魔石恐怖症が残っている今の状況では出すことはできない。

息を切らしながらフェルディナンドがいるであろう執務室の扉を開く。

「フェルディナンドっ」

助けを求めて駆け寄れば、眉根を寄せられた。

緊急事態なのだから許してほしい。

そして、冒頭へと戻る。

現状を詳らかにしたローゼマインに、フェルディナンドは唐突にヴァッシェンと唱えてローゼマインを洗浄した。

「フェルディナンド、何をするのですかっ!」

一瞬溺れかけました!

と詰め寄れば

「問題を解決したのだが?」

と澄ました顔で言うフェルディナンド。

「へ?」

「出来上がった香水が原因だろう。

使用したものに好意を寄せる効果が現れるようだ」

「え、愛の妙薬的な....」

ローゼマインはがっくりと項垂れて

「これでは商品になりませんね..他のもダメかしら?」

と、他の香水を試そうと執務室を出ようとしてフェルディナンドに捕まった。

「ローゼマイン」

側近たちがたまたま席を外している現状、フェルディナンドはアウブやローゼマイン様と呼ばずに“ローゼマイン”と二人きりの時にだけ口にする呼び方でローゼマインを呼んだ。

何やら企んでいる顔のフェルディナンドから距離を取らねばと思うのに、ローゼマインはキュンとしてフェルディナンドから離れられなくなった。

「ハルトムートがこっちで、ベンノがこっちだったか?」

二人が触れた手をフェルディナンドがするりと撫でて、その手に自身の唇を寄せた。

「フェ、フェルディナンド‼⁉」

「なんだ?」

「なんだ?ではありません!

な、な、ななな...何をなさっていらっしゃるのです⁉」

「消毒、だが?」

「平然とおっしゃらないでくださいませ!急にこんな..」

顔を赤くしてワタワタとしているローゼマインに、フェルディナンドは眉根を寄せて

「別の男が君に触れたのをそのままにしておけと?」

「そ、それは..本人たちも不本意な行動なのですから気にせずとも良いのではないですか?
ベンノとハルトムートですし」

そう言えばムッとした表情に変わるフェルディナンド。

「君は私以外が触れるのを許すのか?」

「え?いえ、そういうわけでは...でも」

今回は事故であって、仕方ないのではと言葉を紡ごうとしたローゼマインの唇はフェルディナンドに塞がれていた。

「っ...フェルディナンド?」

なんだか苦しそうな表情のフェルディナンドにローゼマインも切なくなる

「フェルディナンドだけですから」

そう囁けば視線を合わせてくるフェルディナンドに

「私が触れられて嬉しいと思うのも、触れたいと思うのも、触れてほしいと思うのもフェルディナンドだけです」

だから、機嫌を直してくださいませ
そうフェルディナンドの頬に手を添えれば、フッとフェルディナンドの空気が緩んだ。

当然だ、という満足そうな顔に、ローゼマインもふにゃりと表情を緩めた。

「さて、残りの香水の効果を検証してしまうとしよう」

「手伝ってくださるのですか?」

「同じことがあってはかなわぬ」

そう言ってふいっと顔を逸らしたフェルディナンドの耳は微かに赤みを帯びているようだった。

星を結んでから随分経つというのに、フェルディナンドの想いは増すばかりのようで、ローゼマインは嬉しいような擽ったいような、そんな幸せな気持ちで満たされるのだった。




end
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