箱学

□解けない魔法
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そして日曜日。

会って早々に走り出そうとする真波に雪乃は慌てて自己紹介をした。

ちゃんと名乗っていなかったなと思っていたからだ。

「篠宮雪乃、

総北2年で自転車部のマネージャーです。

実は総北の監督の娘でハーフなの」

よろしくねと、改めて言った雪乃に

「あぁ、だから」

そう言って真波は不意に雪乃の髪に触れて

「綺麗な色だなって思ってたんです」

そう言って微笑んだのだった。

「あ......、えっとありがとう」

褒め慣れていない雪乃は頬を染めてお礼を言った。

「雪乃さんってやっぱり可愛いですね」

「かわ....っ」

照れる雪乃を見て真波はクスクスと笑った。

雪乃はいたたまれなくて

「は、早く走れるとこに行こっ!」

とそそくさと歩き出すのだった。




真波の走りは、彼そのものだった。

自由で掴み所はないのに惹きつけられる。

そしてどこか危うさを含んだそんな走り。

雪乃は真波の走りにただ魅せられていた。

真波が走り終わると、二人でベンチに腰掛けた。

「そういえばどうして合宿を見にきたの?」

「あぁ、あれは東堂さんが面白いクライマーがいるって教えてくれたんですよ」

「やっぱりそういうことだったんだね」

雪乃はため息をついた。

「坂道くんっていう面白いクライマーに会えたので、東堂さんの言う通りにして良かったです」

「.....真波くん」

「なんですか?」

「多分、東堂さんが見せたかったのは、小野田くんじゃないよ?」

「違うんですか?」

「うん。多分、東堂さんの言っていたのは巻島先輩だよ」

あの人巻島先輩大好きだから...

と雪乃がうんざり顔で言うと

「どうりで話が噛み合わないわけですね!

坂道くんのことじゃなかったのかぁ」

と真波は笑った。

そして

「でも、やっぱり東堂さんの言う通りにしてよかったです。

坂道くんにも会えたし、

それに雪乃さんに会えて、こうやって一緒に過ごせてるし」

と屈託無く笑う真波の笑顔に、きっと他意はないのに雪乃はドキリとしたのだった。







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