箱学

□解けない魔法
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合宿2日目の早朝、

「頑張ってるな、小野田くん」

総北自転車部のマネである雪乃は、自身も準備体操をしながら走っていった小野田を見送って呟いた。

「さて、コースに不備がないか見回り開始!」

そう言ってゴミ袋を持ってランニングを開始した。

何度か小野田に抜かれつつ、時折、錆びた釘などの危険物を拾いながらコースを走る。

コース終盤になった頃、雪乃は知らないロードに抜かされた。

「え?」

その少し後に小野田に抜かされる

「誰?」

ここには総北の生徒しかいないはずだ。

雪乃は追いつけないと思いつつも、坂の上を目指して走った。

息を切らしてたどり着いた先に、小野田と知らない人物を認めて、雪乃は慌てて駆け寄った。

「ちょっとっ...!」

「あ、雪乃先輩?

どうしたんですか?」

「どうしたって...小野田くん。

彼は誰?」

「えっと、真波くんです!」

「そういうことじゃなくて!」

「えっと、同じ1年生で!

あっ、ここに来るときに山で僕を助けてくれた人で...

えっと、あぁ!同じクライマーで...」

「クライマー.....」

わたわたと説明にならぬ説明をする小野田の言葉を拾って、雪乃は呟いた。

視線を彼に向ければ

「初めまして、真波山岳です」

そうニコリと笑って言った彼、真波山岳に雪乃は詰め寄った

「どこの......

ううん、箱学の子ね?」

「うわぁ、すごいな。なんでわかったんですか?」

「ここから近くて、うちがここで合宿してるの知ってて、しかもクライマーなんでしょ?」

そんなの、と雪乃はため息まじりに言った

「東堂尽八の差し金でしょ?」

「わぁ、すごいですね!その通りです」

そうニコニコ言った真波は

「ところで雪乃さん?

僕に会ったの、ナイショにしてもらえないですか?」

といたずらっ子のように言った。

本当は誰にも見つかるつもりはなかったのだとか。

「でも、いい坂があったら登りたくなるのがクライマーでしょう?」

と屈託無く話す真波に

「.....真波くんの走りを見せてくれたら、内緒にしておいてあげる」

そう雪乃は言っていた。

本当は金城さんあたりには報告しないといけないところではあるけれども。

「僕の走り、ですか?」

「小野田くんの走りを見たんでしょ?

ううん、一緒に勝負したでしょ」

ならそれくらいいいよね?

と、挑戦的に雪乃に見つめられた真波はニッコリと笑った。

「いいですよ、それじゃあ今度、千葉まで行きますから、その時に見せますね」

「今日じゃないの?」

「もう戻らないと怒られちゃうんで」

「連絡先教えてください、雪乃さん」

「あ....うん?」

有無を言わさぬ感じで連絡先を交換させられた雪乃。

帰ろうとする真波の背中に

「真波くん、大会前に見せてよ?」

そう投げかければ

「えぇ、すぐにでも」

と振り返った真波の笑顔は、何故か挑戦的な眼差しで、雪乃はどきりとするのだった。



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