箱学
□一目惚れ
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「っ、雪乃さん⁉」
慌てる真波には構わず、雪乃は真波に向き直って抱きしめた。
「真波くん、苦しそう」
「.....っ」
「そんな思いつめた感じは真波くんに似合わないよ。
走るときは真剣な顔だったけど、いつもニコニコしてて肩の力が抜けてる感じで。
風みたいに自由なのが真波くんに似合ってると思う」
ね?
と雪乃が真波を見上げれば
「やっぱり雪乃さんには敵わないや」
そう言って微笑む真波がいた。
「俺、インハイで負けたんです。
俺のせいなんだ...」
そう言った真波は、自分が最初に小野田くんにボトルを渡して助けたから、彼をインハイに連れてきたから、そして最後勝てなかったから、だから自分のせいだと胸中を吐露した。
「ねぇ真波くん。
皆んな貴方をせめた?」
「いいえ。
荒北さんに何負けてんだヨってど突かれたくらいで...」
「そうだと思った」
「え?」
「だってそんなの真波くんのせいじゃないから」
雪乃は微笑んで続けた
「あのね、私インハイ見に行ってたの」
「えっ⁉」
「ゴールの瞬間見てたの。
素人目だけどあれはどっちも限界ギリギリで全力だったよ。
レースって実力もそうだけど運も関係するよね?
同じレースをもう一度したら、箱学が勝つかもしれない。
それくらいわからない勝負だったって私でも思ったよ」
雪乃は真波を真正面から見つめた。
「練習がちょっと足りなかったかもしれないけど、箱学自転車部の練習はハードだもん。
手を抜いてたわけじゃなかったでしょ?
どんなに練習したってちょっとの運次第で負けることだってある。
それって普通のことだよ?」
それから、と雪乃は続けた
「小野田くん、だっけ?
彼をインハイに呼んだのは真波くんって言うけど...それだって傲慢だと思うな。
真波くんと走りたかったってインハイ行きを決めて、モチベーションにもなったかもしれないけど。
でも、それでも小野田くんがインハイメンバーに選ばれたのは、過酷なレースを走り抜けたのは、彼の努力の結晶じゃないのかな?」
雪乃の言葉に、真波はハッとした顔をしてから、ふわりと微笑んだ。
「うん、雪乃さんの言う通りだよね」
そう言った真波は雪乃を抱きしめた。
「えっ、あっ.....ま、真波くん⁉」
「さっきのお返し」
そう言ってニコリと笑った真波はもういつも通りで、雪乃も微笑むのだった。
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